消費社会の外延
―モガと女性労働者―

佐藤バーバラ(成蹊大学)

 1920年代の初めから今日まで、モダンガールのイメージはさまざまな視点で語られ、明らかな社会概念となっていない。今回の発表では、消費カテゴリーの女性化としてのモダンガール像を参照しつつ、いわゆる女工層と呼ばれる女性たちが商品化の進行する日常生活の諸事象にどの程度関与したか、探ってみる。女性の主要な構成層である彼女たちもまた、階層、教育、そして職業において消費の外延に位置していたのである。

 1920年代の消費ブームについては、私はこれまでおもに高等女学校卒の比較的恵まれた階層の女性について、その願望や想像について明らかにしてきたが、より広範な、より恵まれない階層の女性について、モダン・イメージがどのように欲望や不安をもたらしたかについての検討は、今後の課題として残されている。つまり、工場で働く女工、オフィスでの掃除婦、あるいは銀行の窓口の女子行員といった、職業婦人のもつ中流イメージからは逸脱するような人々についてである。

 彼女たちのモダン概念の形成にも、ショッピングや出版メディア、映画などが役割を果たしたのだろうか。女性雑誌は新製品の販売促進や広告のメディアとして消費文化の装置となったが、中下層の職業婦人もその対象だったのだろうか。これらの問いが当然なされるべきである。最新の商品や新しいライフスタイルについて抱く夢、彼女たちの消費への欲望を育てたのはマスメディアだった。工場で働く女工とオフィスの職業婦人との階層化のメカニズムにたいし、階層を越えて浸透するマスメディアを通じて形成された消費文化はある程度反作用の役割を果たしたのではないだろうか。