植民地台湾におけるファッションと権力

洪郁如(明星大学)

 本報告は、日本統治下の台湾社会におけるファッションと植民地権力の関係を分析するものである。

 日本統治時代の写真には、台湾人は伝統服、洋服、和服といった異なる姿で登場しているが、植民地社会において、それぞれの服装は一体、いかなるメッセージをもたされていたのか。特定の時間、特定の場面において、彼/彼女はどのように服装を選択したのだろうか。日本人対台湾人の支配関係の下にあっては、服装はある種の政治的意味をこめられており、また政治的変動の圧力による緊張感は、服装の選択にも影響を与えたと考えられる。すなわち植民地生活の緊張感や抑圧性は、けっして抗日運動という単一の方向に収斂されるものではなく、日々の生活の中に存在していた。政治、経済を考察対象とした従来の視角からどうしても把握しきれなかったのは、生活の中で人々によって経験されてきた微妙な心理の揺らぎの領域である。

 本報告では服装を身につける「主体」である植民地の女性の内在的な経験を問題にし、オーラル・ヒストリーを用いながら考察を行う。具体的には、中国(台湾)服、洋服、和服着用のそれぞれの実態と意味を、三つの部分に分けて考察するものである。

 結論として、以下の四点を指摘する。第一に、服装選択に現れた被支配者側の戦略性が確認できる。第二に、洋服にある種の「平等性」への期待が見出されること。第三に、和服と伝統服の間には、台湾人女性のアイデンティティへの模索が見出されること。第四に、階層の曖昧化。洋装もしくは長衫のモダンガールの表象を通して、階層を越えようとする挑戦が、新興の「職業婦人」の間に見られたことである。