視覚文化におけるモガの身体
―ジェンダー・イメージの産出をめぐって―

ヴェラ・マッキー(メルボルン大学)

 視覚文化は、それが望ましいイメージであれ、望ましくないイメージであれ、ジェンダー・アイデンティティを普及させ、確たるものとし、批判の対象とする点で重要な役割を果たしている。20世紀初頭の日本における風刺雑誌は、あるべき「男らしさ」や「女らしさ」を読者に提示するひとつの場であった。こうした雑誌のそこかしこに、ジェンダーとモダニティへの社会不安が見て取れる。風刺漫画は、「男らしさ」と「女らしさ」をつねに対照的に描くばかりではなく、さまざまな女性像を表現していた。主婦、中間層の「ご婦人」、女学生、(女性)慈善家、(女性)活動家、そして「モガ(モダンガール)」がそれであり、これらは暗黙のうちに、「女らしさ」をめぐる望ましいモデルを論じるための格好の材料となった。こうした女性像は、時には、日本人女性とヨーロッパ女性、さらには、他のアジア女性との比較を通じて描かれることもあった。またそれは、日本国内の階級関係や他国との国際関係のメタファーとしても機能していた。風刺漫画に登場する「モガ」像のなかで、とくに焦点化されているのは、身体である。風刺漫画の世界では、架空のジェンダー化された空間が創出され、さらに女性の身体は、それが出現する空間に応じたカテゴリー化の手段として機能している。街頭やカフェにみられる女性身体は、家庭に身を置くべき主婦とは対照的に、逸脱としてカテゴリー化された。漫画それ自体はファンタジーの世界であるにもかかわらず、このファンタジー空間のなかにもさらなる差異化がある。というのも、「モガ」を取り上げた風刺漫画は、「ハイアート」における女性裸体の表象をめぐる論争を参照しているからである。こうした論争は、風刺漫画がそのファンタジーの世界で近代女性の問題含みの身体を焦点化していくための、さらなる口実を持ち込んだ。