奢侈と資本とモダンガール
―資生堂企業史研究―

足立眞理子(大阪女子大学)

 本論文では、1920〜30年代における、世界同時多発的に生じる「モダンガール」という現象を、“資本の欲望”と、様々な位置にある女性たちの現実との、<乖離>において理解することを試みる。つまり、「モダンガール」を現実に生きている女性の生活の反映という形で、直接的な連結の経路を、時間的・空間的・階級/民族的に検証するという方法をとるものではない。ここではむしろ、「モダンガール」を、資本主義によって構築された<乖離を塞ぐもの>としての表象の位相において把握する方法を考察する。

 この方法をとうして、1920〜30年代における資本主義世界システムに組み込まれた、日本資本主義の後進的植民地主義的性格(資本主義の拡張性における植民地主義自体に刻まれる後進的性格)の歴史的検証をおこなう。

 また、この検証において、資生堂という一民間企業をとりあげ、その歴史をたどることにより、化粧品企業における香料―石鹸という物質のもつ二面性(奢侈と軍事)と、企業体としての二面性(商品イメージと経営方式)が、「モダンガール」の表象をどのように再構築していったのかを具体的にみていく。

以上三つの作業仮説によって提示されるものを、ここでは、日本の植民地的近代として理解する。