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2004/7/3 「ローカル・センシティヴな開発とジェンダー」 第1回公開研究会
【企画】プロジェクトA3「ローカル・センシティヴな開発とジェンダー政策構築に関する研究」グループ
【報告者】
田中由美子/JICA国際協力総合研修所国際協力専門員
古沢希代子/恵泉女学園大学・助教授
【コメント】
村山真弓/アジア経済研究所・南アジア研究グループ長
伊藤るり/本学ジェンダー研究センター教授
【司会】 熊谷圭知/本学文教育学部助教授
【参加者】56名
【日時】 2004年7月3日(土)13:30−17:30
【場所】 お茶の水女子大学 理学部3号館7階大講義室
【記録】 西張由希子/お茶の水女子大学人間文化研究科博士前期課程
平野恵子/お茶の水女子大学人間文化研究科博士後期課程、学術振興会特別 研究員(COE)
第1回公開研究会では、「日本の開発政策/実践におけるジェンダー視点」をテーマに、JICA国際協力専門員の田中由美子氏と恵泉女学園大学助教授の古沢希代子氏より報告をいただき、田中氏の報告についてはアジア経済研究所の村山真弓氏より、古沢氏の報告については本学の伊藤るり氏から、それぞれコメントをいただいた。
【田中報告】
(JICAの「ジェンダーと開発」政策と理論構築を主導してきた田中氏は、ジェンダー視点に立った日本の開発援助に求められていることについて、(1)マクロレベルでどのようにジェンダー視点が取り入れられてきているか、(2)マクロレベルの理念や政策が現実にどのようにして実現されていくのか、について報告した。以下はその概要である)
男女共同参画会議は、途上国のナショナル・マシーナリー同様、省庁横断的な女性問題/ジェンダー問題に対応していく推進母体である。この男女共同参画会議内部にある苦情処理・監視専門調査会(男女共同参画に関する政策の進捗状況をチェックし反省点を活かしていく機能=モニタリング機能を持つ)が昨年から今年にかけ、ODAの推進について監視するという調査会を開催した。それによれば、ジェンダーに関するプロジェクトは、これまで少額で効果 的な援助はしてきているものの、援助額は年々減ってきている。ODA大綱では、昨年の改訂で男女共同参画の視点を盛り込み、中期政策においてもジェンダーの視点からの評価が必要だということを強調している。しかし、現状ではジェンダー視点が横断的に関わってくるということは明記されておらず、母子保健や教育等以外の開発政策においてジェンダー視点が用いられているわけではない。
次に、本研究会のテーマである「ローカル・センシティヴ」に関しては、援助する側であるJICA職員や専門家自身が、「途上国の特定の援助対象地域」という意味での「ローカル」にセンシティヴでありつつ、ジェンダー・センシティブになる必要がある。これまでのローカル・センシティヴな開発についての事例(ネパールの植林、FAOによるタイの養鶏、ネパールの畜産プロジェクト)における反省点を踏まえると、「ローカル・センシティヴになること」=「対象地域の状況やそこでの男女の役割分業にセンシティヴになること」であることが分かる。ジェンダー・センシティヴになることで男女別 の開発ニーズに気が付くからである。ジェンダー視点を組み込まなかったことによって失敗したプロジェクトはJICAのものでも多い。現在はさまざまな人(ステークホルダーや開発関係者)にインタビューして、ジェンダーに配慮しなかったことで生じた失敗に加えて、女性だけに配慮したがゆえに失敗してしまった事例を収集している。他方、女性の知識や能力を活用して成功したケースもいくつかあり、その一つに「ネパール村落振興・森林保全計画」が挙げられる。このプロジェクトではカーストによって開発から排除されないように配慮すると同時に、地域住民へのインタビューに基づいてプライオリティごとのユーザーグループを結成し、住民が主体的に開発に関わっていった。(ここで田中氏が、研究会に臨席していた、このプロジェクトで協働した現地NGOのスタッフ、ティカさんに発言を求めた。ティカさんは、プロジェクトを通 じて人々がジェンダー・センシティヴになったことは評価されるが、開発に女性が取り入れられることで、家事労働にさらに労働を付加することになり、女性の過剰労働にも注意して開発を進めねばならない、と指摘した。)「ローカル・センシティヴ」になるということは、地域住民の主体性を尊重し、不利な立場にある人(多くは女性たち)が意思決定過程に参加していけるような仕組みを作っていくことに繋がる。
最後にJICA内部でのジェンダー主流化の動きについて言えば、最近までJICAは組織としてジェンダーについて何かを決定してきたということはほとんどなかった。しかし去年、独立行政法人化し、新ODA大綱の中に男女共同参画が盛り込まれたことを受け、JICAの中期目標や地域政策においてもジェンダーの視点を取り入れるようになった。現在ではカンボジアやアフガニスタンの女性省にジェンダー専門家を派遣して、途上国のナショナル・マシーナリーへ協力するという案件も行っている。JICAのこれからの課題としては、一貫してプロジェクトにジェンダー視点を入れて進めていくのはもちろんだが、ジェンダー分析や影響評価などについてももっと調査していかなくてはならない。また、組織とジェンダーという観点から、途上国におけるジェンダー主流化を進めると同時に、援助する側であるJICAの組織そのもののジェンダー・センシティヴィティを上げていかなくてはならない。配布した報告書(『男女共同参画の視点に立った政府開発援助(ODA)の推進について』)は、男女共同参画の視点で初めてODAを評価したものであり、これに対してさまざまな立場から意見を述べていくことによって、評価の質も上がり、より良い国際協力が実現するのではないかと考える。
【コメント/村山真弓】
WIDやGADは日本の中から起こったというより、国際的な影響を受けて政府主導で出来たという経緯がある。日本で国際協力におけるジェンダー問題というのが取り上げられるようになって10年以上経つが、その中で田中氏が中心的となって努力されてきたことを、高く評価したい。JICA自体は独法化されたことで、数年ごとに外部から評価を受けるようになる。ジェンダー平等推進が中期政策に組み込まれたということは、それが達成されないとJICAの評価が下がってしまうわけだから、開発におけるジェンダー主流化を進めていくという点では有効である。マクロ政策や制度の面 にある問題について、ナショナル・マシナリーレベルでの調査委員会が定義したことは非常に重要なことだと思う。
今後、(1)この報告書がどういった形で改善につながっていくのか、そしてこの報告書がどの程度の強制力を持つのかを知りたい。また、(2) 苦情処理が具体的にどのように関係してくるのかを知りたい。
【田中氏の回答】
(1) 技術協力に関係しているのは13府省。そういった省庁がそれぞれ、ジェンダー・センシティヴにならなくてはならない。その進捗状況を報告する義務が各省庁にはあり、そういったものにこの報告書がどんどん組み込まれていくようになるだろう。
(2) 苦情処理については、地方自治体に窓口があり、男女共同参画に関連したことについて苦情が届けられると、それが各省庁に伝わるシステムになっている。
【古沢報告】
(後半は、恵泉女学園大学助教授である古沢氏が、ラオス調査をもとにした報告をおこなった)
最初に、私自身が自らの研究にジェンダーの視点を取り入れるようになった経緯を語りたい。私自身は東チモールの独立を支援する市民運動を長年行ってきたが、その中ではジェンダーは意識していた。しかし、自らの灌漑/農業技術の研究の中では、ジェンダーの視点は欠落したままだった。緑の革命と、畜産の近代化の象徴である白の革命について詳細に記述したバンダナ・シヴァの研究に触れ、農業技術のインパクトを論じる前に、女性が当該コミュニティでどのような役割を果 たしているかについても緻密な分析がなされていることに、目を開かれた。
ラオスにおける灌漑開発調査とその知見について述べる。タイAITの客員研究員として、国連開発計画によって支援されたラオスの灌漑プロジェクトを調査した。テーマは、灌漑開発における女性の役割である。調査項目は、ジェンダーの視点が反映されている何らかの要素をキーワードとし、女性と水利組合、組合内での女性と男性の活動役割等を対象とした。ラオスでは、政府主導であった開発から、部分的に市場経済を取り入れ、責任の所在を政府から住民へと転換する方針へと変化した。その目的のために、本報告の分析対象である水利組合の組織強化が、政府によって開発支援のひとつの目的とされた。ラオスにおける灌漑は、伝統型と後発型の2つのタイプにわけることができる。前者は農民イニシアティヴ型であり、後者は政府や国際機関による援助型となる。ラオスにおける灌漑開発は、地方によって、またどの期間が援助しているかによって水利組合への女性の参加状況はずいぶんと異なる。
女性の水利組合への参加の影響は、権利・エンパワーメント・効率性の3点から考えることが出来る。調査から得られた知見は、次のとおりである。1)女性は水に対して大いに関心を持っている。2)女性は水利組合において実際に大きな役割を果 たしている。3)新しい技術が導入されると、コストや生態系への影響など新しい問題が発生するが、女性がいるのといないのとでは、問題への対応決定が異なる。4)水利組合に女性が積極的に参加すると組織が活性化される。これらが例証されているのが、SIRAPの灌漑農業スキームである。これはメコン川流域でおこなわれた参加型で段階的なスキームである。具体的には、女性農民を対象としたプログラムではグループに小規模融資をおこない、水利組合内にて女性が主体的に活動できるよう配慮がなされた。また、組合内の男性にも女性が組合活動に参画することの意義を説明するプログラムを同時並行で走らせることで、多面 的なプログラムとなった。その結果組合理事に女性が選出されるなど、ジェンダーの視点から成果 があがったといえる。
【コメント/伊藤るり】
1)日本の「開発とジェンダー」は、政府主導ではなく実務家が牽引してきた側面 が強い。日本の場合は、実務家が現場の問題意識をもっていたが、政策にいかされていないだけでなく、大学の教育研究体制も貧弱である。2)(古沢報告について)他国・機関の灌漑開発援助に比べ、日本のスキームにジェンダーコンポーネントが入らなかったのはなぜか?3)(本研究会のテーマに関連して)ローカル・センシティヴであることは、必ずしもジェンダー・センシティヴであることをもたらすとは限らないのではないか?
その後、フロアからも、報告に関する多くの質問・コメントが寄せられ、活発な議論が交わされた。それらは、本研究グループのテーマである「ローカル・センシティヴな開発とジェンダー」に関わる根源的な問題を提起するものであり、今後の研究会の展開に多くの示唆が与えられた。
研究会終了後、2階ラウンジにて報告者・コメンテーターを交えた立食の懇親会が催され、他大学の院生・学生を含めた多くの参加者が議論に興じた。
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