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2005/1/29〜30 若手支援のためのワークショップ『ジェンダーの視点から開発の「場所」を考える―開発実践者・研究者のコラボレーションをめざして―』



【主催】プロジェクトA3「ローカル・センシティヴな開発とジェンダー政策の構築」研究グループ
【協力】プロジェクトA2「アジアにおける国際移動とジェンダー配置」グループ
【日時】2005年1月29日(土)1月30日(日)
【場所】お茶の水女子大学 理学部3号館2F会議室
【コメンテーター】 田中由美子(JICA国際協力専門員) 日下部京子(アジア工科大学助教授) 遠藤 貢(東京大学大学院総合文化研究所助教授) 藤掛洋子(東京家政学院大学助教授)
【司会】 熊谷圭知(本学文教育学部教授) 倉光 ミナ子(本学大学院人間文化研究科助手)
【参加者】47名
【記録】平野 恵子/お茶の水女子大学大学院人間文化研究科博士後期課程・学術振興会特別 研究員(COE)

【内容】
■1月29日(土)10:00〜17:30
趣旨説明:熊谷圭知「ジェンダーの視点から開発の『場所』を考える―ローカル・センシティヴな『開発とジェンダー』構築のために」 基調報告:田中由美子 「ジェンダーの視点から開発の『場所』を考える―開発実践者・研究者のコラボレーションをめざして」
第1セッション
水野桂子(お茶の水女子大学大学院研究生)「バングラデシュにおいて『開発とジェンダー』の現場に携わって」 平野恵子(お茶の水女子大学大学院博士後期課程・学術振興会COE特別研究員)「開発とボランティア―インドネシア『家族福祉運動』を事例として」
第2セッション
黒田史穂子(JICA)「エンパワーメントの過程における女性たちの意識とジェンダー関係の変容について―南米チリ共和国農村部の事例から」
馬場 淳(東京都立大学大学院博士後期課程)「ジェンダー/ローカル・センシティヴな理論とは何か―パプアニューギニア島嶼部に生きる女性たちの事例」
報告とコメント:日下部京子「関係性としての『場』―タイ、カンボジア間の国境貿易に携わるカンボジア女性たちの事例」
全体討論

■1月30日(日)10:00〜17:30
第3セッション
佐野麻由子(立教大学博士後期課程・学術振興会特別研究員)「ネパールにおけるジェンダー意識の変容と新しい女性像―生理規範にみる伝統からの解放と新カテゴリーへの編入」
中沢順子(JICA)「暴力か?フェミニズムか?タンザニアでみた女性割礼
報告とコメント:遠藤 貢「ザンビアにおけるHIV/AIDS問題にみるジェンダー関係の意味とその再構築への課題」
第4セッション
中村雪子(お茶の水女子大学大学院博士前期課程)「農村女性の新たなネットワークの可能性を探る―インド・ラージャスターン州『女性酪農協同組合』を事例にして」
梶房大樹(かいはつマネジメント・コンサルティング)「『開発におけるジェンダー』と男性性へのアプローチ」
報告とコメント:藤掛洋子「ローカル・センシティヴとジェンダー・センシティヴの関係性再考―パラグアイにおける農村女性の事例より:1993-2004―」
全体討論


【内容】
 本ワークショップでは、「ジェンダーと開発」にかかわっている若手実践者・研究者が具体的なフィールドにねざした報告をおこない、それに基づいてローカル・センシティヴかつジェンダー・センシティヴな開発をいかにしてつくるか、2日間にわたり活発な議論が交わされた。以下各報告の要約と議論の要点を記す。

●熊谷圭知:開発の「場所」は、日常の生活世界(現実的)であると同時に、人々のアイデンティティ構築の基盤(規範的)であるという多様な要素が重なり合っている。ローカル・センシティヴであるとは、このような「場所」のもつダイナミズムを的確に捉えることであり、そこにおけるジェンダーの役割と意味を考えることが、ジェンダー・センシティヴに繋がるのではないか。

●田中由美子:開発実践においては、「ローカル・センシティヴ」よりも「グラスルーツ」という語が一般 的。ジェンダー・センシティヴという視点は、現在では「国家から世帯へ、世帯から個人へ」という方向へシフトしている。ローカル・センシティヴになると、逆にジェンダー規範を固定してしまいかねないという危惧がある。開発実践においては、ローカル・センシティヴの例はたくさん蓄積があるが、これからジェンダー・センシティヴな事例も出てくると思われる。これら研究の積み重ねがローカル・センシティヴかつジェンダー・センシティヴな開発実践につながると期待している。

●水野桂子:2000年、2001年から2004年にかけ、バングラデシュにJICAのジェンダー専門家として派遣され、女性農業研修センターの活動に関わった。研修後の調査の結果 、卒業生の女性のうち3割は研修所で得た知識を持って、農業や漁協で働いていた。研修内容については、今まで関わってこなかった稲作を実習してもらい、リプロダクティブ・ヘルスの講義で学べること。さらに、男性の家族成員による理解もあった。他方、課題となる点は次の各点を挙げられる。事業の自立性や現場の強化、人材不足への対応。また開発受益者については、男性をいかに巻き込んでいくかが重要となる。

●平野恵子:地域ボランティアからみた開発政策について、インドネシアの家族福祉「運動」を事例として考察。地域ボランティアに焦点を当てた先行研究は少なく、日常実践が繰り広げられるコミュニティーレベルで、開発政策をとらえたい。家族福祉運動は、その組織構造から、女性がもつと考えられる資源を無償で動員するものとして厳しく批判されてきた。しかし、報告者の調査から、女性たちは、動員されつつも、その活動にかかわることで、政党活動や小規模経営など自らの社会資本を増幅させ、地域内での影響力を増している実態が浮かび上がった。

●黒田史穂子:1999年から2001年まで村落開発普及員として、チリ共和国の首都サンチャゴ市に滞在。押し花と野菜くずのリサイクルペーパープロジェクトの実践の過程で見出したことは、女性たちの意識における変化であり、具体的には達成感と呼べるもの。コミュニティーの人々との関係性の変化も生じ、自分たちの判断で会の運営を決定するようになっていた。教訓として、活動の開始段階で、参加者の家族やコミュニティー活動の理解と協力を求めること、対象地の歴史的・文化的背景を知るために時間をかけて調査をおこなう必要性を感じた。

●馬場 淳:パプアニューギニアにおける人類学的な調査によれば、常生活を成り立たせている論理は、根本的に開発援助とは異なる。日常的実践の論理とは、地域社会をよりよく生きていくためのもち手である。もち手を動員する基準は複数かつ流動的である。それは、「多配列思考」と言い換えることが可能。臨機応変で一貫していない。単配列思考としての開発の言説との間には、乖離がある。 開発の「場」を考えると、日常を生きる女性たちは、一つの目的や生き方に縛られないで、臨機応変に生きている。こうした日常生活者の論理を、開発実践者に考慮してほしい。

●日下部京子: タイとカンボジアの国境付近にあるトンレサップ湖の魚を輸送するルートに焦点をあて、国境という「場」が作り出す、モノの移動によって移動する人たちの構築される関係性に注目。国境認識やそれをめぐる力関係も、アクターによって異なる。中では、女性の小規模漁業者が非常に弱い立場にあり、流通 経路が確立していく中で、男女間の不平等関係が深まってしまう。魚は非常に価格変動が激しいので、それを扱う彼女たちはリスクを負っているにもかかわらず、さらにマージナルな場所へと追いやられてしまうという問題がある。

●中沢順子: 2002年から2004年までタンザニアに村落開発普及員として入る。FGMの実態を知りたいと思ったが、アウトサイダーの外国人にとってはなかなか入り込めない。事例対象地のドドマ州では、78%の女性が割礼をおこなっている。FGMは女性のセクシュアリティをコントロールする手段であるために、人権侵害であるといえるが、文化相対主義的視点からすると、文化伝統/民族のアイデンティティであるかぎり、外部圧力が大きくなるほど、女性割礼が強化・保持されてしまうという矛盾がある。割礼を受けることで社会的に認知されるという側面 があるので、割礼を受けずに女性の地位が上がる方法を考える必要がある。

●遠藤 貢:世界のHIV/AIDS感染者の7割がアフリカに集中している。南部アフリカでは、感染者が成人人口の約25%を占めており、非常に危機的な問題となっている。アフリカの特徴は、男性よりも女性の感染比率が高いという点にある。低年齢の婚姻により、年上の男性との性交渉を持つ機会が多い、セックスワーカーとして生計手段を立てるしか方法がないことや、処女と性交渉をすることでHIVから清められる、という迷信によって、感染女性の低年齢化が進んでいる。HIV/AIDSの問題を考える上では、ジェンダー関係の再構築が大きな課題となる。

●中村雪子:インド女性酪農協同組合を「場」として、「開発」過程に参加する女性たちは「女性酪農協同組合」をどのように認識し、いかなる「資本」として動員しているのか考察する。女性酪農協同組合拡大の背景には、「女性と開発」の視点がある。現実には、アクターごとに異なる思惑があり、イデオロギー的な言説とは異なる実態が見出せることである。その一つとして、夫たちの反乱が上げられる。結果 として、組合にかかわる女性は、親族関係や既存の地域権力関係に回収されてしまう。一方で新たなモデルの提供を通 じて、社会の緩やかな変容の可能性も予見することができる。

●梶房大樹:開発における男性問題とは何か?男性というのは女性にとっての「問題」でしかないのか。女性性と同様、男性性も構築されてきている。特にジェンダーやWIDというときに、分析的には性別 の役割やコミュニティー内での役割・マネジメントについて問題視される。GADでは社会構造が問題視されるが、男性性がどのようにして構築されてきているのか、見ていく必要がある。権力行使のパターンも変わってくるので、挑戦すべきは集団としての個人としての男性ではなく、男性性である。社会集団としての男性も、一枚岩ではない。

●藤掛洋子:対象地域のパラグアイとは、10数年来、関わっており、研究者と実践者を往還している。文化的な規範によってS村の女性たちは自らをカンペシーナとして規定している。実践者としての関与の中で、野菜消費に関するプロジェクトを行い、幼稚園設置やジャム加工工場のプロジェクトなどが続いた。実際的ジェンダー利害関心を達成していくことで、既存の社会の言説に疑問を持つようになり、意識も変容し、コミュニティーのマネジメントも行っていく女性が出てきた。が対抗言説を作り、家族計画においても、ローカルな規範と現実の生活を天秤にかけることで戦略的な利害関心を充足させようとする女性たちの動きが生まれた。そこにローカル・センシティヴを前提にしないと見えてこない女性の役割があるのではないか。

 2日間のワークショップでは、最後まで新鮮で刺激的な報告と討論が続いた。この研究グループのテーマである「ローカル・センシティヴな開発とジェンダー」については、議論が収斂 するところまではいきませんでしたが、そのための課題と方向性が見えてきたと考える。地域研究者と開発実践者の「ローカル」へのまなざし・手法には、まだ相互に隔たりがあるが、それを具体的に共有していく試み(たとえばPRAと参与観察的フィールドワーク)はもっとなされうるだろう。ジェンダーの問題を第三世界のローカルなコンテクストの中に位 置づけ、その多様性と変化、そこにおける「ジェンダー公正」を検証するという課題も残されている。開発実践が繰りかえされても、先進国と第三世界との間の構造的不平等が縮まらないという大きな問題を考えるためにも、両者は協働する必要がある。実践者と研究者が、ジェンダーとローカルな場所へのコミットメントと改善への期待という課題/動機付けを共有している限り、両者の対話・協働は可能だし、もっとなされなければならないというのが、ワークショップを終えての主催者としての感想である。

なお、本ワークショップの各報告については、来年度プロシーディングスが刊行される予定である。
(文責:平野恵子/熊谷圭知)

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