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2005/2/19 第2回COEジェンダー英語圏2004年度大会 第1部 講演会




【企画】プロジェクトD英語圏
【タイトル】「セクシュアリティの地平―いま見る・読む・感じる表象批評の冒険」
【日時】2005年2月19日 13:30〜15:30(第2部は別に記録)
【場所】お茶の水女子大学理学部3号館7階大講義室
【発表者・題目】
小谷真理(SF & ファンタジー評論家)「テクノゴシック(Techno-goth)論」
【司会】竹村和子(お茶の水女子大学)
【記録】大脇美智子(横浜国立大学)
【備考】使用言語は日本語。出席者150名(学内+学外)
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【内容】(敬称略)
  本講演は、SF&ファンタジー評論家の小谷真理氏を講師に迎え、「テクノゴシック(Techno-goth)」という、ここ数年日本でもカルト的人気を高めつつある、きわめて新しい文学ジャンルをテーマに取り上げて行われた。(注:講演のなかでも説明があったが、「テクノゴシック」はもとの英語ではTechno-gothという語である。英語ではGothicとgothは明確に区別されているので、本来ならば「テクノゴス」という訳語を当てるべきだが、ゴスという語が日本ではまだ一般的でないため、便宜上「テクノゴシック」と呼んでいるとのことである。以下、ここではなるべく原語表記を用いる。)小谷氏は、同時代のSF/ファンタジー作品・批評の書評や紹介を幅広く手がけ、『男たちの知らない女』(マーリーン・バー著;訳書1999年)、『サイボーグ・フェミニズム』(ダナ・ハラウェイ著;訳書2001年)等の翻訳によって、英語圏の先駆的なフェミニストSF研究の紹介を行うほか、『女性状無意識??テクノガイネーシス/女性SF論序説』(1994年)、『エイリアン・ベッドフェロウズ』(2004年)をはじめとする多くの著書を発表しており、文字通り、日本のフェミニストSF&ファンタジー研究の第一人者である。それらの著作において、日頃から知的刺激と示唆に富む議論を展開している小谷氏が、「テクノゴシック(Techno-goth)」という文学ジャンル/文化表象をいかに読み解くのか。そうした参加者の期待に応えるべく、小谷氏は、パワーポイントによるスライド提示などをふんだんに交えつつ、質問も含めて約二時間に亘り、Techno-gothについて縦横無尽に語ってくださった。以下はその要旨である。(以下敬称略)

  「テクノゴシック(Techno-goth)」とは、「現代ポップカルチャーの一形式であるgothと、ハイテクカルチャーを背景にした文学であるサイバーパンクとの間を切り結ぶ文学スタイル」であると定義できるが、その際、Techno-gothの“Techno”の方はサイバーパンクからの類推で了解できるとしても、後半の“goth”という語がいったい何を意味しているのかが問題になる。今回の講演もやはり、Techno-goth文学を読み解く鍵となる「ゴス」について紹介/考察することに力点が置かれ、ゴスとは何か、ルーツであるゴシックからどのような変遷を辿って生まれたのか、ゴスとゴシックはどのように異なるのか等々といった点を中心に話が進められた。

  gothとは、一言でいうと、1990年代以降のポップカルチャーの一形式のことであるが、そのルーツはGothicにある。Gothicは、12?14世紀に建築様式として成立して以来、何度か大きな歴史的変遷を経ているため、Gothicと言ったときにそれがどのような意味で用いられているのかについては注意が必要である。講演ではこの歴史的変遷の過程について簡単な解説をしたうえで、結論として、ゴスのルーツとしてのゴシックは、18世紀後半から19世紀後半にかけてイギリスで大流行したGothic Romanceにあるということを指摘したが、ここで小谷は「ゴシックは不安を描く文学である」という鈴木晶の言葉を引用し、それがゴスにとっても重要な特質のひとつであることを示唆した。(後ほど提示されたスライドでも、ゴス的な表象やキャラクターの大部分は、ゴシック・ロマンスの古典的名作『フランケンシュタイン』、『吸血鬼』、『ジキルとハイド』等から生み出されたゴシック的怪物表象に多くを負っていることが明らかにされた。)さらに小谷は、ゴシックのもう一つの大きな特色として、(ホレス・ウォルポールがゴシック館を建ててその中で『オトランド城奇譚』(1764)を執筆したという逸話に代表されるような)「テクストとコンテクストの同時進行または混濁現象」を挙げ、これがゴス・カルチャーの文脈で現れたものが、「ゴスの日常化/ローカル化/グローバル化」現象であるという興味深い指摘を行った。

  ゴス・カルチャーのカルト的な人気は、最近の英米や日本では非常に高まっているが、なかでも特筆すべき事項は、ゴスの日常世界への浸出/侵出(=以前はフェティッシュ・クラブやコスプレ大会など異次元空間でしか見られなかったゴスのコスプレが、しだいに日の当たる場所へ出てきはじめている)現象と、こうした現象が映画『マトリックス』(1999)のブレイクと同時進行で始まったという事実である。日本における『マトリックス』のコスプレ大会がインターネットによるネットワーキングのみで実現されたという実話は、インターネットという現実世界のテクノロジーによって、非日常による日常世界の侵犯(ゴスの日常化)だけでなく、ゴスのローカル化とグローバル化が同時に起こっていることを示す例でもある。このように、その土地や時代の不安や恐怖にとりつき増殖していくゴシック/ゴス的なものは、テクノロジーと結びつくことで、さらに急速に現実世界を変化させる力を獲得しつつあるのかもしれない。そういった意味で、極めつけのTechno-Gothとして読める『マトリックス』に描かれる現実と仮想現実の転覆関係が示唆しているものは大きい。

  最後に小谷は、ゴスとジェンダーの問題に言及し、ゴスの典型的ヒーローとヒロインのもつ両性具有性が、現実社会の固定したジェンダー観やセクシュアリティを変化させる可能性について考察した。しかしながら時間不足のせいで、この点についての議論があまり深まらなかったのは残念だった。

  講演終了後は会場の参加者との活発な質疑応答が行われ、@(Techno-goth命名者である)ギブスン自身の作品に見られるゴス性について、Aサイボーグ・フェミニズムとゴスの関わりについて、Bゴス的なものが常に過去のリサイクルとして立ち上がってくる可能性について、等々の質問がフロアから出された。そのそれぞれについて小谷は、@指摘通り、ギブスンは非常にゴス的感性をもった作家である、Aサイボーグ・フェミニズムには一種のフェティッシュ性があり、その意味ではゴスとの親和性があると言える、B「自分がニヒリスティックになったときにデカダンスが出てくる」ように、ゴスは一種の抵抗として出てくるのではないかと思われる、といった旨の回答を行った。他にも多くの手があがり、懇親会の場に引き継がれた。 

  司会の竹村和子が最後に締めくくったように、小谷氏の講演は、今後の私たちの研究の幅を広げてくれるような貴重な示唆や情報をふんだんに盛り込んだ、楽しくかつ興味深い内容であった。何より大きな収穫だったのは、現在進行形で動いている新しい文学・文化表象に果敢に挑戦し、現代社会との関わりのなかで読み解いていこうとする姿勢を教えられたことである。まさに、「いま見る・読む・感じる表象批評の冒険」という今回の研究集会のテーマにふさわしい講演であった。

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