ジェンダー研究の国際的拠点 - お茶の水女子大学 ジェンダー研究センター
 

エリ・バルトラ

メキシコ都立自治大学(ソチミルコ校)社会科学・人文学部政治文化学科教授
赴任期間:2005年12月-2006年2月

第19回IGS夜間セミナー

ラテンアメリカにおけるフェミニズムと民衆文化
Feminismos y cultura popular en America Latina

期間

2005年12月15日、22日、2006年1月12日、19日、26日

担当

エリ・バルトラ Eli Bartra お茶の水女子大学ジェンダー研究センター外国人客員教授 メキシコ都立自治大学(ソチミルコ校)社会科学・人文学部政治文化学科教授

内容

お茶の水女子大学ジェンダー研究センター(IGS)は、2005年12月から2006年3月まで、メキシコ都立自治大学(ソチミルコ校)社会科学・人文学部教授のエリ・バルトラ氏を客員教授としてお迎えすることになりました。外国人客員教授の制度が始まって以来、初めてのラテンアメリカからの招聘教授となります。

エリ・バルトラ氏は、ラテンアメリカ、カリブ海地域における女性学、ジェンダー研究にくわしく、米国、ブラジル、アルゼンチン、スペインなどで客員教授・研究員をつとめるなど、国際的にも高い評価を受けています。 バルトラ氏の研究関心の範囲は広く、フェミニズム思想と女性運動、その学問論や研究方法論から表象芸術やポピュラー・カルチャーにいたるまで、数多くの著作があります。

このたびの夜間セミナーではまず、バルトラ氏の出身国メキシコにおけるフェミニズムとその運動の展開に関する講義が行われます。スペインによる植民地化を経験し、さらにアメリカ合衆国を隣国とする同国では、欧米のフェミニズム運動の影響を強く受けると同時に、メキシコの文化や社会を背景とした独自の思想形成と運動が展開してきました。セミナーでは、このようなメキシコ・フェミニズムの約一世紀にわたる変遷とダイナミズムを前半3回の講義を通して明らかにします。 さらに後半2回では、バルトラ氏のライフワークの一つである、ラテンアメリカのフォーク・アート(arte popular)研究について、豊富な映像資料を用いながら講義が行われます。バルトラ氏の考察は、従来「ハイ・アート」の派生物と考えられてきた民衆女性のアートに独自の意味を見いだそうとするものです。セミナーでは、周縁化されたアート及びその担い手である女性制作者に関する分析を通して、芸術と政治、さらにはそれらがエスニシティ、階層、ジェンダーと複雑に絡み合う様相をメキシコとブラジルの事例を通して明らかにします。 大学内外に開かれたセミナーですので、皆様ふるってご参加ください。

  • 第19回夜間セミナー実行委員会 浅倉寛子、天野知香、伊藤るり、石塚道子、大村香苗、栗原尚子
  • 事務局:林奈津子、原田雅史、宮崎聖子
日 時 テーマ
I . 12月15日(木) メキシコにおけるフェミニズム運動史の概観
II. 12月 22日(木) メキシコのネオフェミニズム
Ⅲ. 1月 12日(木) ラテンアメリカとカリブにおける女性学とジェンダー研究
Ⅳ 1月19日(木) 女性とフォーク・アートに関する一考察――メキシコの事例
Ⅴ. 1月26日(木) フェミニズムと文化的多様性――ブラジルのフォーク・アート

セミナーを始めるにあたって
エリ・バルトラ

社会的不平等という状況を変革しようとする女性の闘いは、メキシコにおいては、ほぼ一世紀にわたる歴史を持つ。自分が暮らす社会に起こる問題と類似した問題が、他の土地でどのように起こったのかを知ることがとりわけ有益と思えるのは、それが自分の社会における同じ過程の理解を深めるからではないだろうか。それゆえ、たとえそれが断片的だとしても、日本とは著しく異なる社会的・歴史的現実を持つ他の大陸の、そしてこの大陸の一角を占めるある国の、女性の闘いの経験に接することは、それ自体、知的、そして感情的地平を広げる機会となることだろう。 今回の5つの講義では、2つのことに取り組みたい。一つは、20世紀から21世紀初頭にいたるまでの期間に、メキシコの女性が、自らが経験する社会的不平等と不正という状況をどのように変革しようとしてきたか、その闘いを紹介することである。いま一つは、メキシコとブラジルという2つのラテンアメリカの国において、女性が深く関与しているポピュラー・カルチャーのクリエーティブな活動の例を紹介することである。

I. 12月15日(木) メキシコにおけるフェミニズム運動史の概観


しばしばいわれることだが、現在のいかなる過程を理解しようとするにも、まずはそれに関する豊かな前史を理解しておかなければならない。この初回の講義では、1970年代のネオフェミニズムに先立って、メキシコで女性たちが展開してきた闘争をめぐる興味深い歴史を知るのが適切ではないかと思う。なぜなら、そうすることにより、最近の歴史をより深く理解できるからである。世界各地で存在した女性参政権獲得運動は、メキシコでは特殊な歴史を持っており、それを知ることは非常に重要である。なぜなら、それとの差異、あるいは類似性を通して、自己の歴史をより良く理解できるかもしれないからである。

II. 12月22日(木) メキシコのネオフェミニズム

約35年前、フェミニズム運動はほぼ全世界で再生した。発展途上国であり米国の「裏庭」であるメキシコでは、ネオフェミニズムは従属的であると同時に、固有かつ自律した発展を遂げてきた。のみならず、その発展と並行して氾ラテンアメリカ・フェミニズムの形成も見ることができる。氾ラテンアメリカ・フェミニズムには、他の土地においても一定の意義を有すると思われる、いくつかの興味深い特徴が備わっている。第2回目の講義ではこの問題を取り扱うこととする。 

III. 1月12日(木) ラテンアメリカとカリブにおける女性学とジェンダー研究

女性学、またはジェンダー研究と呼ばれるものは、明らかにさまざまなフェミニズム運動の産物であり、メキシコもその例外ではない。一部のフェミニストにとって、その関心の一つは、学術の世界にフェミニズム思想とその思考を持ち込み、そこに教育と研究の空間を切りひらくことだった。それは、各国において、さまざまな方法でなされた。この講義では、メキシコの女性学を確立する過程における、困難に満ちた道のりを説明する。

IV. 1月19日(木) 女性とフォーク・アートに関する一考察――メキシコの事例

この講義では、まずフォーク・アートに関する概説を行う。フォーク・アートは、民芸品ともエリート主義的アートとも区別され、ジェンダーや階級、そしてエスニシティといったカテゴリーと緊密な関係にあるものとして考察できる。引き続き、メキシコのフォーク・アートの事例として、アレブリッへalebrijes(マチェ紙[張り子の一種]による怪獣)とオクミチョocumichos(ミチョアカン州オクミチョ村の粘土細工)を取り上げ、それらの画像を紹介しつつ、検討する。 

V. 1月26日(木) フェミニズムと文化的多様性――ブラジルのフォーク・アート

最終回では、まずブラジルのフォーク・アートを概観する。そのうえで、リオデジャネイロのアバヨミ(Abayomi)黒人人形の例に焦点を当てる。この事例をとおして、フォーク・アートにおけるエスニシティ、階級、ジェンダーの結びつき、ならびにアートと政治の相互関係をはっきりと、また具体的に捉えていくことができるだろう。講義では、こうしたアートのビジュアル資料を紹介する予定。

※このイベントは終了しております。

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