ジェンダー研究の国際的拠点 - お茶の水女子大学 ジェンダー研究センター
 

李小江(リシャオジャン)

中国 大連大学性別研究中心(ジェンダー研究センター)教授兼センター所長
赴任期間:2004年1月-2004年3月

第15回IGS夜間セミナー

グローバル化における通文化的ジェンダー研究の意義と方法  
-北東アジア女性口述生活史を事例として-

期間

2004年1月28日(水) 2月4日(水) 2月12日(木) 2月18日(水)

担当

李小江(Li Xiaojiang)
お茶の水女子大学ジェンダー研究センター外国人客員教授
中国 大連大学性別研究中心(ジェンダー研究センター)教授兼センター所長

内容

お茶の水女子大学ジェンダー研究センター(IGS)は、2004年1月から3月まで客員教授として李小江教授をお迎えすることになりました。
李小江先生は、1980年代に中国において女性学を創始した著名な研究者であり、現在も中国女性学研究の展開につとめ、大連大学教授兼ジェンダー研究センターの所長の任にあります。李小江先生の研究活動、社会活動歴は多岐にわたる目覚しいものです。研究活動においては、1988年の『イブの探究』を始めとして,『性溝』(1989)、1994年には『走向女人』(邦訳『女に向かってー中国女性学をひらく』)など、中国社会の女性解放について果敢に論じた多数の著作を刊行しています。その著作は、ドイツ、米国、インド、韓国等の海外においても刊行されています。研究活動以外にも民間研究女性団体「女性学会」設立(1985年)、鄭州大学女性センター設立(1987年)、中国女性博物館の創設(1991年)等、名実ともに女性学のパイオニアとして活躍をされてきました。李教授の業績は国内外から高い評価を受け、1989年には中国国家教育委員会より全国優秀教師賞、1994年にはイギリスケンブリッジ国際センターから「20世紀における達成者賞」、1995年にはニューヨーク市立大学より国際女性パイオニア栄誉称号が送られています。 近年は、主に20世紀中国女性の口述史に関するプロジェクトを推進し、その研究成果である『20世紀中国女性口述史叢書』の既刊の4巻は「戦争編」「時代編」「文化編」「民族編」として2003年1月に刊行され、後続の4巻は2005年に刊行の予定です。

今回の夜間セミナーでは、李小江先生が近年取り組んでいる「満州国」期の中国、朝鮮、日本の女性の口述史を中心に講義していただきます。李先生もコメンテーター及び講義参加者との交流を期待していらっしゃいます。大学内外問わず、皆様ふるってご参加ください。

  • 第15回夜間セミナー実行委員会 舘かおる、秋山洋子、宮尾正樹、河野貴代美
  • 事務局:長谷川和美、原田雅史
日 時 テーマ コメンテーター 司会
I. 1月28日(水) 理論的仮説:「プレ - グローバリゼーション」問題から「グローバル化研究を考える
――なぜ行うか? どのように? 何をなしとげたか?――
秋山洋子
(駿河台大学)
未定
II. 2月 4日(水) 〈方法1〉ジェンダー分析:階級/民族/国家を超えて
――中国朝鮮族と南北KOREAの事例から――
早川紀代
(横浜市立大学)
未定
III. 2月12日(木) 〈方法2〉口述インタビュー:生活/生存の質を省察する
――北東アジア(中国、日本、韓国)農村女性の事例から――
桜井 厚
(千葉大学)
舘かおる
(本学)
IV. 2月18日(水) 〈方法3〉立場の置き換え:多元的文化の差異、衝突、選択を提示する
――旧満州(日本植民地)時代の口述生活史を中心に――
中尾知代
(岡山大学)
秋山洋子
(駿河台大学)

セミナーを始めるにあたって
李 小江

「グローバル化」はいよいよ客観的事実となって、社会各レベルの集団に属する人々に深刻な影響を及ぼすようになってきた。そうした中で二つの相互作用が連動して起きている。一つは外部要因の積極的な介入、もう一つは個人にとっての選択肢の増加である。それによって、「グローバル化」は世界各地のさまざまな集団の中で個人にとっての生存の質を測るための不可欠な前提になるとともに、「個人」の生存価値は初めて(社会の)水面に浮かびでて、人文社会科学における判断の重要な尺度、研究者がとるべき基本的立場になった。――まさにこの意味において、ジェンダー研究、とりわけ通文化的ジェンダー研究は大変重要だといえるだろう。「ジェンダー」(人類共通の特徴でもあり、個人の実生活と密接に関わる要素でもある)分析を通じて、人種、民族、国家といった伝統的命題の束縛や特定の政治利益やイデオロギーのしがらみを超え、「個人」と「人生」とに直接向かいあうことができる。さらに、異なる人間集団の理解と共存をはかり、個人の自由、理性ある選択、ひいては人類社会の多様化と世界平和をもたらすための議論のたたき台を提供することができる。

I. 1月28 日(水) 18:30-21:00
理論的仮説:「プレ‐グローバリゼーション」問題から「グローバル化研究」を考える ――なぜ行うか? どのように? 何をなしとげたか?―― コメンテーター:秋山洋子(駿河台大学教授)

通文化的理解は困難であり、そのための最善の方法は「事例」の紹介だと考える。そこで、毎回の講座では事例(つまり「物語」)の紹介からはじめることにする。初回の中心は二つである。一つは私個人の経験を例に、女性研究からジェンダー研究へと転換した過程と意義を紹介しつつ、多元的文化並存のグローバル化という背景のもとで、ジェンダー研究が、主流にある学術分野と伝統的な学術界に対して積極的に影響を及ぼし働きかけてきたことを説明する。二つめは、今回のセミナーの主題に関連するもので、主として用語の説明、とくに私の研究とセミナー全体に深く関係するキーワード――例えば、プレ‐グローバリゼーション(前グローバル化)/「グローバル化」(初回に重点的に取り上げる)、ジェンダーの関係とその社会的生態環境、個人における生活/生存の質(主に2回目に取り上げる)――を説明したい。ほかに、研究方法やこれまで取り組んできたこと、今後の課題についても触れる。

II. 2月4日(水) 18:30-21:00
〈方法1〉ジェンダー分析:階級/民族/国家を超えて ――中国朝鮮族と南北KOREAの事例から―― コメンテーター:早川紀代(横浜市立大学非常勤講師)

ジェンダー関係への考察は、異なる政治制度と民族文化によってつくられた「社会生態環境」における個人の生存水準を見るための、最適な角度だと考える。一世紀以上にわたって世界中で、政治制度(植民地戦争、東西冷戦)やイデオロギーが、一部の伝統的民族/国家を転覆し分断した。その典型は朝鮮民族(三分割)、ドイツ民族(二分割)、中華民族(外部は三分割、内部に少数民族)などである。この第2回では中国の朝鮮族と南北KOREANを例に、ジェンダーの視点からアプローチする。講師自身の先の北朝鮮訪問を手がかりとして、異なる社会制度における同一民族のジェンダー関係を実地調査し、比較研究を試みた内容を取り上げ、近代国家制度とイデオロギーがいかにジェンダー関係を作り直したか、また伝統的民族文化がジェンダー関係を通していかに個人の生活の質に影響を及ぼすかを論じる。

Ⅲ. 2月11日(水) 18:30-21:00
〈方法2〉口述インタビュー:生活/生存の質を省察する ――北東アジア(中国、日本、韓国)農村女性の事例から―― コメンテーター:桜井 厚(千葉大学教授) 司会:舘かおる(本学)

研究の対象である個人の具体的な生活状況に対し、多面的な理解や「共感」を得るためには、その生活環境に身を置き、面と向かって話を交わさなければならない。「観察」(見る)だけでは不十分で、「聞く」こと――生活や社会に対するその人自身の感じ方を聞き取ることが重要である。そのため、第3回では、似通っているが異なる二つの概念――生活の質(自分の感じ方)と生存の質(研究者の分析)を用いて説明する。前者は研究対象の「自己感覚」であり、後者は諸要素を総合した研究者による判断である。今回はジェンダー比較方法を取り入れる。農村という場を選んだのは、伝統がかなり温存されており、多元文化の特色がみてとりやすいからである。一方、女性を対象に選択したのは、私的領域と個人生活についての記憶とその言語表現が、かなり完全形で望めるからである。具体的には、「三つの農業問題」をテーマに、中国東北部(漢民族、朝鮮族)、それに日本(宮部村七里夫婦)への実地調査、インタビューを中心に、通文化的比較を行う。ジェンダー分析を通じて、研究の視野を国家/民族/階級/家庭など社会的範疇のレベルから、生身の個々の人間にズームアップしてゆく。

IV. 2月18日(水) 18:30-21:00 
〈方法3〉立場の置きかえ:多元的文化の差異、衝突、選択を提示する ――旧満州(日本植民地)時代の口述生活史を中心に―― コメンテーター:中尾知代(岡山大学助教授) 司会:秋山洋子(駿河台大学)

民族による価値観のちがい、ひいては敵対する政治的立場はわれわれの判断に影響を与え、語る主体(「私」か「我々」)に異なる中身を付与する。「我々」という主語はしばしば「民族」の代名詞となり、ナショナリズムを避けるのは難しい。ところが、「私」の物語からだと、たいせつな歴史の情報をかいまみることができるし、「衝突」や「選択肢」を認識する動機や手がかりがみつけられる。「立場の置きかえ」は人々の相互理解、尊重そして平和共存の前提である。通文化的ジェンダー研究は少なくとも、1. 政治立場、2. 民族立場、3.性別立場という三つの面に配慮すべきであり、「排斥」ではなく、互いの「共感」によって総合的分析を行う必要がある。今回は旧満州(日本植民地)時代の女性の「米」に関する集団の記憶を事例に、二つの問題を提示したい。一つは民族のアイデンティティ(およびその衝突)、もう一つは女性の歴史記憶の特殊な位置付け、ということである。植民地時代の「日常生活」からアプローチするが、関係する内容と問題は、現代の「グローバル化」の流れに伴って現れた「ポストコロニアリズム」に相似する点が多く、示唆するところがあると考える。

※このイベントは終了しております。

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