ジェンダー研究の国際的拠点 - お茶の水女子大学 ジェンダー研究センター
 

シンシア・エンロー

IGS外国人客員教授、クラーク大学政治学・国際関係学教授
赴任期間:2002年12月-2003年3月

第12回IGS夜間セミナー

ミリタリズムとジェンダー

期間

2003年1月30日、2月2日、2月13日、2月20日、2月27日

担当

シンシア・エンロー Cynthia Enloe (IGS外国人客員教授、クラーク大学政治学・国際関係学教授)

第1回 Making Feminist Sense of "International Political Economy" : Feminist Looking at Globalized "Cheap Labor"

コメンテータ:上野千鶴子(東京大学教授)
司会:舘かおる(IGS教授)、御巫由美子(国際基督教大学助教授)

国際政治経済の展開、及びグローバリゼーションについて通説となっている分析の多くは、外国資本の輸出向け工場で働く賃金労働者の大半が若い女性であることの理由やその仕組みについてまったくと言っていいほど問題にしていない。 グローバル化された工場労働が女性化されている理由やその仕組みを問わずにいることは、国際政治経済の構造とその改編がどれほど多くの意思決定を伴うのか、またいかに多くの公的、私的権力の行使を要するのかという点を過小評価することになる。 国際政治経済の動きを現実主義に立って理解するためには、地方政治、家族、大衆メディア、国際機関、軍や警察、そして女性労働者自身が作り上げる「女らしさ」の概念、特に「立派な女性」と考えられる女性像について、フェミニズムの観点から問う必要がある。セミナーでは、国際的なスニーカー産業の事例を取り上げ、女性労働がどのようにして「安く」させられているのかを、フェミニズムの視点から明らかにしていきたい。

第2回 Making Feminist Sense of "National Security"

コメンテータ:御巫由美子(国際基督教大学助教授)
司会:舘かおる、伊藤るり(IGS教授)

近年、「国家安全保障」は実に影響力のある概念となってきた。この概念によって正当化される政府の活動領域はどんどん広がっている。だがフェミニストは、フェミニズムの分析力を使って、この通念と化した概念をべつの視点から検討している。特に、フェミニストが問題にしているのは、国家のネーション観が女性が「ネーション」のどこに位置すべきかを決める家父長制思想に基づいている点である。そのようなネーション観に立った国家安全保障のいったいどこが「ナショナル」だといえるのか。第二にフェミニストが問題視しているのは「安全保障」を実現するための手段である。さまざまな社会で本当に多くの女性が、安全保障のためと称して採られる暴力的手段によって安全を脅かされているのに、安全保障担当の高官たちはこうした形態の暴力についてはめったに議論しようとしない。

第3回 Why Pay Close Attention to Women inside Militaries?

コメンテータ:佐藤文香(慶応大学SFC研究所客員研究員)
司会:舘かおる、御巫由美子

各国のフェミニストの多くは、軍内部の女性の経験や考えについて時間や労力をかけて考察することを好まない。場合によっては、そのような作業を否定することさえある。フェミニストの目には、軍隊に入る女性 ―必ずしも全員でないにしても、その多くが志願による― が、自分たちの国の軍事化の片棒をかつぎ、入隊することが女性解放に向かう次なるステップであるかのように捉えていると映るのである。だが私は軍隊に加わる女性の行動様式や経験の変化をきちんと検討していけば、そこから多くを学べるにちがいないと思っている。 第一に指摘できるのは、いまなお男性化されている軍の新兵採用についてである。軍が女性の入隊を求めようとするのはきわめて特殊なときに限られている。それは彼らが信頼できる男性兵の供給が途絶えたときである(したがって、これは常にそうなのだが、性差別の問題は人種差別の問題と切り離して考えることはできないのだ)。 第二に明らかとなるのは、家父長制的制度が少数の女性を採用しつつ、それが家父長制を壊さないためにどのような調整を行おうとしているかという点である(これは、近代の法律事務所や立法府の状況に類似している)。 第三に、軍に入隊する女性の問題を正面から取り上げることで、私たちは、彼女らが性差別の問題に直面する過程で、いかに自らのアイデンティティを造りだし、日常における生き残り戦略を練っているか(その営みがミリタリズムの問題についての自覚を伴わないにしても)という点をより良く理解できるだろう。


第4回 Lessons We Can Learn from the Women of Afghanistan

コメンテータ:竹中千春(明治学院大学助教授)
司会:舘かおる、御巫由美子

今日、ニュース報道のほとんどはアフガニスタン女性への関心を失いつつあるが、彼女らの生活は依然として高度の軍事化によって規定されている。このことは、戦争という行為がいつ「終結」を迎えるのか、という大きな問いを引き出す。戦闘状態にあるルワンダ、東ティモール、ボスニア、そしてアフガニスタンのフェミニストは、戦争の終結に関する新しい考え方を提示してきている。 彼女らは、男らしさやミリタリズムに関する現在進行中のさまざまな過程について、フェミニズムの視点からの検討を促しているのである。その狙いは、真の非軍事化に関するより精緻な理解にある。それは、女性と男性、男らしさと銃、家父長制と国家、それぞれの間で新しい関係性を造り上げることを求めるものである。

このページのトップにもどる


 

お茶の水女子大学ジェンダー研究センター
〒112-8610 東京都文京区大塚2-1-1 Tel. 03-5978-5846 Fax. 03-5978-5845