ジェンダー研究の国際的拠点 - お茶の水女子大学 ジェンダー研究センター
 

ローダ・ケスラー・アンガー

ブランダイス大学ジェンダー研究センター専任研究員
赴任期間:2004年6月-2004年7月

第16回IGS夜間セミナー概要

ジェンダーの社会構築 ―フェミニズムの視点による実証心理学―

期間

2004年6月30日、7月7日、14日、21日(全回水曜日)

担当

Rhoda Kesler Unger (ローダ・ケスラー・アンガー)
お茶の水女子大学ジェンダー研究センター外国人客員教授 米国 ブランダイス大学ジェンダー研究センター専任研究員

内容

お茶の水女子大学ジェンダー研究センター(IGS)は、2004年6月から7月まで客員教授としてローダ・ケスラー・アンガー教授をお迎えすることになりました。 アンガー教授は、米国において女性心理学という分野の発展に多大な貢献を果たした著名な研究者であり、現在はブランダイス大学女性学研究センターで専任研究員としてご活躍されております。アンガー教授は、1966年にハーバード大学から実験心理学の博士号を取得後、1970年代初期のフェミニズム興隆に積極的に関わり、従来の「科学的」「客観的」であるはずの実験心理学に歴史的観点が欠如している点を指摘されました。1970年代、実験心理学と自分自身の問題意識が乖離しているという自覚を多くの研究者が持ちつつも、方法論的に正当性であると見なされたものに背をむけることは勇気のいることでした。実験心理学自体を内省的に捉え直す機運の薄いこの時代に、アンガー教授は、1975年に発表した「女性における心理学的性別役割の再考」の中で、心理学の分野にジェンダー概念を取り入れる重要性を唱えるなど、性差が社会的に構築されたものだという社会学的視座を実験心理学に積極的に取り入れてきました。 これまでアンガー教授は女性、ジェンダーに関する心理学の本を9冊、また60を超える学術論文を発表されています。1989年にはRepresentations: Social Constructions of Gender、1992年のWomen and Gender: A Feminist Psychology、1997年In Our Own Words: Readings on Women and Gender、そしてフェミsニスト心理学の展開の歴史を自己内省的に分析した1998年のResisting Gender: Twenty-Five Years of Feminist Psychology、また編者としてA Handbook on the Psychology of Women and Gender(2001)等多数刊行されています。これは、『女性とジェンダーの心理学ハンドブック』として2004年3月日本語翻訳が刊行されています。 近年では、女性の身体様式、典型的思考、権力等、きわめて社会的な視座から女性やジェンダーの心理学を分析するなど、アンガー教授の研究領域・問題意識は非常に幅広いものになっています。女性心理学研究に大きなパラダイム変革をせまった著名な研究者の一人として、女性心理学の展開の歴史と課題を中心に夜間セミナーを担当して頂きます。大学内外問わず、みなさまふるってご参加ください。 第16回夜間セミナー実行委員会 河野貴代美、竹村和子、青木紀久代、信田さよ子 事務局:長谷川和美、原田雅史

日時

テーマ

コメンテータ

司会

2004年6月30日 (水)

心理学の歴史における主題、行為者、エージェントとしての女性

青野篤子 (松山東雲女子大学)

河野貴代美 (本学)

2004年7月7日 (水)

ジェンダーを生きる、権力を行使する ―社会心理学は女であること、男であることについて何を語っているか?―

坂元章 (本学)

河野貴代美

2004年7月14日 (水)

子宮から墓場までの女性イメージとその心理的示唆

青木紀久代 (本学)

竹村和子 (本学)

2004年7月21日 (水)

性差別とその帰結 ―心理的問題へのフェミニスト的アプローチ―

信田さよ子 (原宿カウンセリングセンタ-)

竹村和子

コメンテーター紹介

青野篤子(松山東雲女子大学教授)
研究領域は、社会心理学、ジェンダー心理学。編著に、『ジェンダーの心理学―男女の思いこみを科学する―』(ミネルヴァ書房、1999年)、『心理学とジェンダー―学習と研究のために―』(有斐閣、2001年)、共訳書に『女性とジェンダーの心理学ハンドブック』(北大路書房、2004年)、論文に「フェミニズムと教育」(『児童心理学の進歩』39、 2000年)、「対人距離に及ぼす性と地位の影響―従属仮説の観点から―」(『社会心理学研究』 19、2003年)など多数刊行。
坂元章(本学教授)
研究領域は、社会心理学、社会情報学、教育工学。主な著書に、『認知的複雑性と社会的知覚システムの進展』(風間書房、1993年)、共著書に『心理学の世界』(有斐閣、1994年)、編著書として『サブリミナル効果の科学―無意識の世界では何が起こっているのか―』(学文社、1999年)、『インターネットの心理学―教育・臨床・組織における利用のために―』(学文社、2002年)、『メディアと人間の発達』(学文社、2003年)の他、多数論文を刊行。
青木紀久代(本学助教授)
研究領域は、発達臨床心理学を通じての乳幼児から成人に至るまでの特に女性のライフサイクル上に生じる心の不適応的問題と成長について。著書に、『拒食と過食―心の問題へのアプロ-チ』(サイエンス社、1996年)、『調律行動から見た母子の情緒的交流と乳幼児の人格形成』(風間書房、1999年)、『子どもを持たないこころ―少子化問題と福祉心理学』(北大路書房、2000年)、『保育に生かす心理臨床』(ミネルヴァ書房、2002年)、他がある。
信田さよ子(原宿カウンセリングセンター所長)
研究領域は、臨床心理学、児童学。主な著書に、『アダルト・チルドレン完全理解~一人ひとり楽にいこう』(三五館、1996年)、「アディクションアプローチ」(医学書院、1999年)、『依存症』(文春新書:文芸春秋社、2000年)、『DVと虐待―「家族の暴力」に援助者ができること』(医学書院、2002年)、『愛しすぎる家族が壊れるとき』(岩波書店、2003年)、『家族収容所―「妻」という謎』(講談社、2003年)など他多数出版。

セミナーを始めるにあたって
ローダ・アンガー

この夜間セミナーでは、ジェンダーが社会的にいかに構築されているか、そのメカニズムをフェミニスト心理学者による実証的研究を通して探策するつもりである。4回のセミナーは、どの回も心理学の様々な分野に焦点を当てる。そして、破綻なく当然だと見える男らしさや女らしさを作り出すために、それぞれに異なる分析レベルの過程が、どのように相互に関わるかを検証したい。分析レベルには、個人の中で操作される過程(例えば態度や認知)、対人間関係上での過程(他人からの影響)、そして社会構造上の可変要因(権力や特権の基準)が含まれる。これらの分析は、共有されている社会的現実の一部として、女性がいかに社会構築の主体や対象になるかを明らかにするだろう。さらに、これらはジェンダーの変わりゆく見解に関する、文化的・歴史的文脈の役割をも探究することになると思われる。

I. 6月30日(水) 18:30-21:00 心理学の歴史における主題、行為者、エージェントとしての女性 コメンテーター:青野篤子(松山東雲女子大学教授) 司会:河野貴代美(本学教授)

この回では、知識社会学の観点からアメリカ合衆国における女性心理学の展開を検討する。単なる吟味の対象として、女性の行動様式は男性のそれとは異なりまた逸脱していると考えられてきたが、ジェンダー的視点を通し、これらがどのように心理学の中で進化してきたかを分析したい。それは、フェミニスト心理学の女性・男性の研究において、既存の組織化された偏見を検討し、権力や特権のシステムに関連するジェンダーの社会構築について考察するものである。

II. 7月7日(水) 18:30-21:00 ジェンダーを生きる、権力を行使する ――社会心理学は女であること、男であることについて何を語っているか?―― コメンテーター:坂元章(本学教授) 司会:河野貴代美(本学教授)

この回では、社会心理学者による実証的研究が、ジェンダーを創生し構築する過程をいかに説明できるかを見ていきたい。ここでは、自己充足的思い込みに関する研究(自己表現や行為の承認)および典型的な脅しやアンビバレントな性差別に関する比較的新しい研究に焦点を絞って考察したい。 

III. 7月14日(水) 18:30-21:00 子宮から墓場までの女性イメージとその心理的示唆 コメンテーター:青木紀久代(本学助教授) 司会:竹村和子(本学教授)

この回では、人生の各段階(幼児期から老齢期まで)を踏まえた視点で、女性をあらわす視覚的・言語的イメージについて述べる。これは、女性の身体的外見に対する社会全体の注視を検証し、女性自身の身体観に及ぼす影響を考察することである。さらに、身体的魅力の欠如と社会的逸脱が、いかに女性観のなかに織り込まれ、社会的コントロールの勢力として作用するかを論じたい。

IV. 7月21日(水) 18:30-21:00  性差別とその帰結 ――心理的問題へのフェミニスト的アプローチ―― コメンテーター:信田さよ子(原宿カウンセリングセンター所長) 司会:竹村和子(本学教授)

この回ではアメリカ合衆国における男女の権力の差異が、さまざまな心理的問題を、異なった割合で引き起こす事態を考察したい。ジェンダー化した社会的ストレス源が女性の精神的、身体的健康に及ぼす影響に焦点を当てる。さらに、心理的問題の発症とその治療の分野で、ジェンダー、民族、社会的階層の関わりに基盤をもつ理論であり実践でもあるフェミニスト・セラピーを論じたい。

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