ジェンダー研究の国際的拠点 - お茶の水女子大学 ジェンダー研究センター
 

キャロリン・ソブリチャ

フィリピン大学女性学研究センター長
赴任期間:2006年5月-2006年7月

第20回IGS夜間セミナー

女性の人権尊重とジェンダー平等の推進
-フィリピン及びアジア諸国の経験から-

期間

2006年5月10日、17日、24日、31日、 6月7日

担当

キャロリン・ソブリチャ Carolyn I. Sobritchea
お茶の水女子大学ジェンダー研究センター外国人客員教授
フィリピン大学女性学研究センター長

内容

お茶の水女子大学ジェンダー研究センター(IGS)は、2006年4月から2006年6月まで、フィリピン大学女性学研究センター長キャロリン・ソブリチャ氏を客員教授としてお迎えすることになりました。
ソブリチャ教授は、文化人類学、女性学を専門とし、その研究領域は、ジェンダー・イデオロギー、フェミニスト方法論、WID、GAD、リプロダクティヴ・ヘルス/ライツ、ドメステック・バイオレンス、評価指標の研究と、多岐にわたっており、創設期からフィリピンの女性学の総括的な研究者としての役割を担ってきた方として知られています。
著作は、研究書のほかに、優れた研修用・教育用の教材を開発し、作成しています。ソブリチャ氏の研究と実践活動は、フィリピンのローカルな場における女性の現実を、政治経済的な国際的視野の中に明確に位置づけ、政策と運動と研究と教育実践のすべての場面に、具体的に関わってきた、説得力のあるものと言えます。

今回、ソブリチャ教授は「女性の人権尊重とジェンダー平等の推進―フィリピン及びアジア諸国の経験から」というテーマのもとに、5回連続の夜間セミナーを担当なさいます。研究者のみならず、国際協力に関心を持つ学生やJICAやGADの研究・実践活動に従事する実務家等の多くの人々に有益なものとなりえると思われます。大学内外に開かれたセミナーですので、皆様ふるってご参加ください。

  • 第20回夜間セミナー実行委員会 舘かおる、原ひろ子、熊谷圭知、杉橋やよい
  • 事務局:林奈津子、駒田明彦、岸野幸子
開催日
テーマ
コメンテーター
司会
第1回
5月10日(水)
フィリピンにおける女性運動とフェミニズム研究
―収斂と分化の分析―
原ひろ子
(城西国際大学)
舘かおる
(本学)
第2回
5月17日(水)
フィリピンとアジア諸国におけるジェンダーに敏感な職業技術教育訓練の推進に果たすJICAフィリピンの役割 滝村卓司
(JICA)
熊谷圭知
(本学)
第3回
5月24日(水)
アジアのHIV/AIDS現象をめぐるフェミニズム視点からの検討 兵藤智佳
(早稲田大学)
原ひろ子
(城西国際大学)
第4回
5月31日(水)
ジェンダーの主流化
―ジェンダーの主流化は、実際に女性の地位向上をもたらしたか?―
橋本ヒロ子
(十文字学園女子大学)
杉橋やよい
(本学)
第5回
6月7日(水)
女性の地位向上への権利アプローチ
―フィリピンの経験から―
村松安子
(東京女子大学)
舘かおる
(本学)

セミナーを始めるにあたって
キャロリン・ソブリチャ
(林奈津子訳)

 この夜間セミナーで、わたしは、フィリピンを含むいくつかの東南アジア諸国におけるアジアのフェミニストの視点とその実践に焦点を当てる。5回にわたる夜間セミナーの講義では幅広いテーマと文献を扱う予定であるが、主に、アジア諸国――特に、フィリピンを含むいくつかの東南アジア諸国――のフェミニストたちによって提唱され、また実践されてきたジェンダー平等と女性の人権についての理解を深めることを目的とする。講義の中では、まず、フィリピンをはじめとする東南アジア諸国の女性活動家や研究者による理論的考察と実践が、いかに地理的な広がりをみせ、多様な政治的コンテクストの中で語られ、また多方面で実践されているかを明らかにする。そのうえで、こうしたアジア諸国のフェミニストたちの言説が、いかにして、国際的人権を実現する諸策、グローバル・アクション、女性支援プログラム、そして国内法の内実に取り込まれ、技術的専門知識や開発援助の供与側と受入側にいる人たちによって実践されているのかを、問うこととしたい。
「第三世界フェミニズムを知的、政治的にいかに構築するかについて議論するとき、二つの重要な点に注意を促したい。」 これはチャンドラ・モハンティの、Under Western Eyes: Feminist Scholarship and Colonial Discourse (1997)の中の言葉であるが、ここで彼女が言わんとすることは、第三世界フェミニズムを構築するためには、覇権的な西洋的フェミニズムを批判するだけでなく、アジアの地理、歴史、文化に根ざしたフェミニズムを形成するという、二つの重要な課題に同時に取り組む必要がある、ということである。本セミナーのねらいは、こうしたアジアのフェミニストたちが取り組んできた課題を考察することにある。アジアのフェミニストであるわたしたちは、アジアという地域、国家、コミュニティのニーズと希望の声に応える形で、フェミニズムへの理解を深めるよう努力してきた。本セミナーでは、その努力の過程にみる様々な議論や思考が織り成す調和と対立に光を当てると同時に、アジアという地域性やローカル・コンテクストに目を向けることで、その対立が緩和されるという点も明らかにできるだろう。

第1回(5月10日)
フィリピンにおける女性運動とフェミニズム研究
―収斂と分化の分析―
Women's Movements in the Philippines and Feminist Scholarship: An Analysis of Convergence and Disunities

 第1回目の講義では、1970年代初期から現在にいたるフィリピンの女性運動の歴史を概説する。この時期にフィリピンでは戒厳令が施行され、民衆の力によって民主化が実現し、その後1987年には憲法が改正される。より最近の取り組みとしては、ネオ・リベラルな経済政策と地方分権化によって、政治的・経済的統治が強化されるなど、1970年代初期以降、フィリピンは一連の変化を経験する。こうした政治的・経済的変化を背景に、フィリピンの女性運動史を概観するのが初回の講義の目的である。
1980年代初期に、フィリピンでは大学や研究機関に「女性学」や「女性研究プログラム」が設置される。これと時期を同じくして、フェミニズム研究への関心が高まり、フェミニスト研究者たちはフィリピン女性が現実の生活の中で日常に抱える問題群に関心を向けるようになる。その結果、実践に生かせる研究――例えば、女性団体が開発計画を推進する上で大いに役立つような研究――が、いくつも誕生する。一方で、研究内容があまりに理論的すぎるために、フィリピン女性が現実の中で直面する問題からは隔絶しているという批判を受ける研究も散見される。講義では、この二つのグループに学説群を分類して紹介し、両者の間に生じる調和と対立にも焦点をあてる。

◆基本文献◆ Sobritchea, C. (editor) 2004. Gender, Culture and Society: Selected Readings in Women’s Studies in the Philippines. South Korea: Ewha Woman’s University Press. Mohanty, C. 1997. “Under Western Eyes: Feminist Scholarship and Colonial Discourses,” In Feminisms, edited by S. Kemp and J. Squires. Oxford: Oxford University Press. Brooks A. 1997. “Consensus and Conflict in Second Wave Feminism: Issues of Diversity and Difference in Feminist Theorizing,” Post Feminisms: Feminism, Cultural Theory and Cultural Forms. London and New York: Routledge.

第2回(5月17日)
フィリピンとアジア諸国におけるジェンダーに敏感な職業技術教育訓練の推進に果たすJICAフィリピンの役割
The Role of JICA Philippines in Promoting the Gender-Responsiveness of Technical and Vocational Education and Training in the Philippines and other Asian Countries.

 過去10年にわたって、JICAフィリピンは「技術教育と技術開発のための女性センター(Women's Center of the Technical Education and Skills Development Authority, TESDA)」の支援に携わっている。TESDAとは、フィリピンを含むアジア諸国における労働者の職業訓練や技術向上を支援する政府機関である。

 第2回目の講義では、この訓練プログラムの内容、手段、そしてプログラムの成果について説明する。特に、1999~2005年に、JICAフィリピンはどのように「ジェンダー主流化と開発」の原則とアプローチを職業技術教育訓練に反映させていったのか、この点をこの講義で検討する。開発支援を戦略的に活用することで、貧しい女性たちの経済的地位が向上されるということを明らかにしたい。

◆基本文献◆ TESDA Women's Center. 2005. A Study of Employment Opportunities for Women in TWC’s 12 Trade Areas. Manila. JICA Philippines. Website of Gender. WID, JICA Philippines. http//www.jica.go/p/english/global/gend/philippines.html.

第3回(5月24日)
アジアのHIV/AIDS現象をめぐるフェミニズム視点からの検討
Feminist Interrogations of HIV/AIDS Phenomena in Asia.

この講義では、移住フィリピン女性家事労働者の「居場所のなさ(placelessness)」、すなわち職場の内外で女性たちが経験する地理的な排除(displacement)について考察する。ここで用いるのはローマとロサンジェルスで行った移住フィリピン女性家事労働者へのインタビュー・データである。「居場所のなさ」とは、以下の3つの意味を含んでいる。(1) 職場における空間移動の限界、(2) ローマの支配的な公共空間及びロサンジェルスのミドルクラス中心的な移住フィリピン人コミュニティからの隔離、(3) 唯一自分たちの空間と呼べる、バスや公園といった一時的な空間への封じ込め。移住フィリピン女性家事労働者の「居場所のなさ」は、移住にあたって統合を妨げる要因となる。「居場所のなさ」を検討していくことで、いかに人種的排除が彼女たちの移動経験を顕著に決定しているかが了解されるだろう。またそれは、女の移動が必ずしもジェンダーの問題だけに還元されないということを想起させる。

◆基本文献◆ Micollier, E. (editor). 2004. Sexual Cultures in East Asia:The Social Construction of Sexuality and Sexual Risk in a Time of AIDS. London and New York: Routledge Curzon. UNAIDS. n.d. “Women and their Vulnerability,” Women, Gender and HIV/AIDS in East and Southeast Asia. Bangkok.

第4回(5月31日)
ジェンダーの主流化
―ジェンダーの主流化は、実際に女性の地位向上をもたらしたか? 
Gender Mainstreaming: Has it Really Contributed to the Advancement of Women?

  1995年に中国の北京で第4回世界女性会議が開催されて以来、世界中の国々で「ジェンダー主流化と開発」というパラダイムが導入されるようになる。それを受けて、ジェンダー平等のための政策や計画が、確実にその目標を達成するようにジェンダー主流化のための戦略が組み立てられてきた。

 第4回目の講義では、フィリピン、インドネシア、マレーシア、タイの事例を取り上げながら、こうしたジェンダー主流化への取り組みがもたらした功罪について議論する。また、ジェンダー主流化に関するアプローチの理念と現実の乖離、そして両者の歩み寄りについても検討する。

◆基本文献◆ National Commission on the Role of Filipino Women. 2004. Report on the State of Filipino Women 2001-2003. Manila. (text may be accessed in the website of the National Commission on the Role of Filipino Women ? NCRFW.gov.ph Sobritchea, C. 2004. “Institutional Mechanisms for the Advancement of Women,” Beijing+10: Celebrating Gains, Facing New Challenges ? A Report of the Philippine NGOs. Manila Sobritchea, C. 2001. “Women in Southeast Asia: Have They Come a Long Way? Perspectives. No. 4. Manila. Konrad ? Adenauer- Stiftung.

第5回(6月7日)
女性の地位向上への権利アプローチ ―フィリピンの経験から― 
Rights-Based Approaches to the Advancement of Women: The Philippine Experience

  近年、フィリピンの多くの女性団体が、ジェンダー平等を実現する手段としての制度改革に関心を寄せている。従来はジェンダー主流化に注目していたが、最近では、ジェンダーに起因する差別を撤廃するためには法律、教育、司法上の制度改革が必要であるという主張を次第に強めている。フィリピンの女性団体は、フィリピン政府に対して、女性差別撤廃委員会(CEDAW)の勧告をはじめとして、国際的人権を保障する様々な国際的勧告を実施するよう求めている。また、こうした女性団体は女性の人権を保障する法律の制定や、ジェンダーバイアスを是正するための法律を制定するためのロビー活動を行っている。

 このように、女性の人権の尊重によってジェンダー平等を実現しようとする「権利アプローチ」は、「エンタイトルメント(権利・権原)」という概念に基づいており、女性の経済的・政治的権利だけでなく、社会的・文化的な権利までを包括する。また、この手法は政府に対して、性的指向、社会階層、民族、あるいは年齢によって制限されることのない女性の人権を尊重し、保護し、そして推進する政策の形成だけでなく、その政策を遂行のための組織と計画を導入する義務を政府に課すものである。講義では、このような手法を通して女性の人権保障に取り組んでいるフィリピンの女性団体のイニシアティヴについて考察する。

◆基本文献◆ National Commission on the Role of Filipino Women. 2002. Women's Realities and Rights: A CEDAW Brief. Manila UNIFEM, 2005. Claim and Celebrate: Women Migrants' Human Rights through CEDAW. UNIFEM Jordan Office.

※このイベントは終了しております。

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