ジェンダー研究の国際的拠点 - お茶の水女子大学 ジェンダー研究センター
 

キム・ウンシル(金恩實)

韓国 梨花女子大学 アジア女性学センター長、女性学部准教授
赴任期間:2004年11月-2005年1 月

第17回IGS夜間セミナー

韓国フェミニズムの理論化に向けて
―ナショナリズム、近代、そしてグローバル化との関連を問う―

期間

2004年11月4日、11月11日、18日、24日、12月2日

担当

キム・ウンシル(金恩實)教授
お茶の水女子大学ジェンダー研究センター外国人客員教授
韓国 梨花女子大学 アジア女性学センター長、女性学部准教授

セミナーを始めるにあたって
キム・ウンシル

韓国のフェミニズム研究および運動の諸問題は、近代韓国の国民国家成立過程において、近代化とナショナリズム、さらに20世紀後半のグローバル化言説との絶え間ない競合、妥協、そしてラディカルな批判にさらされ、その中で形成されてきた。 今回の5回連続の夜間セミナーでは、韓国で10年間にわたって女性学を教え、研究してきた私自身の経験に基づき、現在の韓国フェミニズムの政治における主体形成の問題、フェミニズムの〈知〉の批判力と可能性、さらには、新しい社会変革を主導する文化的、政治的エネルギーとしてのフェミニズムの政治について述べていきたい。

I. 11月4日(木) 18:30-21:00
〈女性〉主体の構築――ナショナリズム、近代、そしてフェミニズムの拮抗する諸問題――
コメンテーター: 江原由美子(東京都立大学教授)
司会:伊藤るり(本学教授)

 私が女性学に取り組み始めたころ、韓国では、韓国的フェミニズム、韓国的女性学という社会的言説が支配的であった。これに対して、私はこうした言説における「韓国的なるもの」と「フェミニズム」の関係を問題化し、「女性」カテゴリーのもつ歴史的・政治的関係について論じた。
第1回目のセミナーでは、歴史的・政治的状況がどのように〈女性〉主体をつくるのか、また、フェミニストはいかにして自分たちに課せられた歴史的、社会的制約から脱け出そうとするのか、あるいは、女性の間に差異を生み出す規範的カテゴリーとしての女性(Women)はどのようにつくられるのか、といった問いをとおして、フェミニズム政治学の主体である「女性」カテゴリーを検討したい。なお、韓国において、フェミニズムは西欧に起源をもつ知識、ならびに運動として絶えず批判にさらされてきた。その「フェミニズム」と韓国社会内で変革を担う「フェミニズム(女性主義)」の関連性についても論じたい。 

II. 11月11日(木) 18:30-21:00
競合するジェンダーとセクシュアリティ
――韓国フェミニズムの政治における身体と性的主体としての〈女性〉の発見――
コメンテーター: 河野貴代美(本学教授)
司会:舘かおる(本学教授)

 2回目のセミナーでは、家父長制と女性の問題を論じるうえでもっとも重要な基本概念である女性の抑圧、女性の従属、不平等、そしてそれらを説明する概念枠組としてのジェンダーの政治学や社会学が、今なお韓国女性学の主流を占めている状況について指摘する。そして、このなかで身体とジェンダー、そしてセクシュアリティのカテゴリーが、どのように関連づけられているのかを紹介したい。今日、出産/堕胎にみる、いわゆる生殖上の身体、あるいは、女性のセクシュアリティの問題は、さしあたりジェンダーの政治学の領域で扱われている。しかし、身体が作り出す転覆の政治や女性の性的主体性と快楽の問題、女性の間のセクシュアリティの差異といった問題群の浮上により、韓国フェミニズムは、ジェンダーとセクシュアリティをどのように関連づけるべきかという新たな問題に直面しているのである。これは理論と女性運動の両面についてあてはまる。ここでは、女性学におけるジェンダー概念とセクシュアリティ概念の節合(articulation)と競合、「フェミニズム」の政治内部における差異と攪乱の現状について考えてみたい。  

III. 11月18日(木) 18:30-21:00
グローバル化時代の女性のセクシュアリティ
――女性のセクシュアリティの脱領域化、再領域化、そして位階化――
コメンテーター:瀬地山角(東京大学助教授)
司会:伊藤るり(本学教授)

 3回目のセミナーでは、国民国家、女性のセクシュアリティ、そしてグローバル化がどのような関係にあるかという視点から、〈女性〉について論じたい。グローバル化時代の重要な特徴のひとつは、空間の停泊性、あるいは、空間と場所によって規定されるアイデンティティの消滅だといわれる。だとすると、移動と移住、そして国境を越えること、境界を越えることが強調されるグローバル化時代の女性は、どのような方法で境界を越え、どのようにカテゴリー化され、位置づけられるのか。また、国民国家の境界を越えた女性と国民国家の境界内の女性たちはどのような関係に置かれるのか。これらの問題について議論したい。特に、この回のセミナーでは、韓国の性産業に従事する多様な国籍と人種の女性がどのようにカテゴリー化されているかという問題を検討することにより、国民国家内部のジェンダーとその権力関係に基づくフェミニズムの政治に伏在するジレンマ、さらにはその打開の方向性について話し合いたい。

IV. 11月24日(水) 18:30-21:00 
「韓流」、もしくは新しいトランスナショナルな文化空間
――台頭する新しい解釈者としての女性とその文化的な力――
コメンテーター:池田恵理子(NHKエンタープライズ21)
司会: 宋連玉(青山学院大学教授)

 4回目のセミナーでは、女性の文化的権利、または、女性と文化的な力の問題について考えたい。
ここでは、近代教育の恩恵の下で(男性の)言語を習得し、自らの生と経験、そして欲望に意味を与えるフェミニズムの言語と象徴、あるいは表象(再現)の体系を作り出そうする女性たちの文化的権利についてだけでなく、既存テキストを新しく解釈し、転移transferenceする能力をもつ女性の登場と、その文化の政治学について論じる。この問題を、母親の他者、あるいはその卑体として認識されてきた中年女性/アジュンマ(おばさん)と、このような認識に対する韓国アジュンマたちの抵抗、日本女性の間に見るペ・ヨンジュン現象、ソウル女性映画祭の成功などを例に取り上げ、論じる。

V. 12月2日(木)18:30-21:00
「アジア」女性学の知/権力の政治
――アジアにおけるトランスナショナル・フェミニズムに向けて――
コメンテーター:船橋邦子(和光大学教授)
司会:金富子(本学COE客員研究員)

 4回目のセミナーでは、理論と経験的事例、普遍と具体性、西欧の知とアジア(あるいは韓国)の知の関係性をめぐる議論をとおして、非西欧社会で、そして周辺地域で、近代のパラダイムを使って学問研究、わけても女性学を行うこと、経験的研究をすることについて述べたい。
フェミニズムは、アジアのほとんどすべての国で、西欧に起源をもつ、西欧の知とみなされてきた。フェミニストたちが攻撃される時には、何よりもまず、外から輸入した知識をもって自分たちの社会を説明しようとしていると非難される。私は、1997年からアジア8ヵ国の女性学研究者たちとアジアの女性学カリキュラム開発プロジェクトを進めてきた。また、1995年からThe Asia Journal of Women´s Studiesを刊行し、梨花女子大学で10年間女性学を教え、研究してきた。この経験に基づき、最終回では、女性学を運動と同時に学問として実践し、教えること、その知識と情報をアジアで分かち合うことの社会的、政治的、学問的意味について論じたい。そして、アジアの研究者たちとともに知識を生産し、交換していくなかで、ポスト・コロニアルな対話を模索し、西欧に対する対抗言説counter discourse、対案言説を追究するという企てを共有したい。最後に、グローバル化時代の新しい女性連帯の政治学として、トランスナショナル・フェミニズム(国家縦断フェミニズム)による連帯を、ひとつの可能性として提案したい

※このイベントは終了しております。

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