ジェンダー研究の国際的拠点 - お茶の水女子大学 ジェンダー研究センター
 

IGS通信3号

2001年04月10日

第9回夜間セミナーのお知らせ

お茶の水女子大学ジェンダー研究センター(IGS)主催
「現代ヨーロッパにおける移動とジェンダー」
Migration and Mobility in Contemporary Europe: A Gender Perspective

ミリヤナ・モロクワシチ客員教授(Prof. Mirjana Morokvasic)
お茶の水女子大学ジェンダー研究センター外国人客員教授
フランス国立科学研究センター政治システム分析研究所上級研究員 兼 パリ第10大学(ナンテール校)大学院教授

お茶の水女子大学ジェンダー研究センターでは、2001年4月より2001年9月まで、フランス国立科学研究センター政治システム分析研究所上級研究員 兼 パリ第10大学(ナンテール校)大学院教授のミリヤナ・モロクワシチ先生を当センター外国人客員教授としてお迎えすることになりました。モロクワシチ先生のご専門は、移動とジェンダー、およびヨーロッパにおける社会主義体制崩壊後の超国境的移動にかんする比較社会学的研究で、この領域で多くの論文、編著を公刊していらっしゃいます。

1972年、パリ第5大学より社会学博士号を取得。その後リール第3大学をへて、1979年よりフランス国立科学研究センター政治システム分析研究所に着任。1994年からは、パリ第10大学においても教授として研究・教育活動に従事されています。先生の教育・研究活動は、フランスを越え、ヨーロッパや北米にも及んでいます。その最も革新的な試みは、2000年7月から10月までドイツ・ハノーバーで開催された国際女性大学 (IFU)の設立・実施でしょう。IFU設立以来、「移動」研究部門のカリキュラム作成チームの1人として、そして同研究部門統括責任者として、ヨーロッパで史上初の女性大学の運営に深く関わられた経験をお持ちです。また、国際移動研究の代表的学術雑誌の一つであるInternational Migration Reviewが1984年に初めて「女性と移動」を特集した際、その編集責任者の任に当たられ、当時の国際移動と女性にかんする研究蓄積を眺望した巻頭論文を執筆なさいました。

当センターでは、モロクワシチ先生来日に伴い、「現代ヨーロッパにおける移動とジェンダー」のテーマのもとに、下記概要の要領で5月から6月にかけて夜間セミナーを開催いたします。ふるってご参加くださいますようお願い申し上げます。

セミナーを始めるにあたって  ミリヤナ・モロクワシチ 

  現代の国際移動が「女性化した」と述べることは、いまや一般通念になった。多くの場合、こうした発言の根底には、女性が移動の流れに加わることがグローバル化に関連する「新しい」展開だとする考えがある。夜間セミナーでは、ヨーロッパの文脈を事例として取り上げるが、そこで明らかになるように、移動への女性の参加は新たな展開なのではなく、むしろ社会における女性の地位をめぐるフェミニストの問題提起やジェンダー研究によって、女性の移動についての言説や意識が変化してきたということを示しているにすぎない。セミナーでは、今日移動する女性と男性についての私たちの理解を決定的に形成してきた主要な時期や論点、概念化に焦点を当てたい。また、いくつかの重要な動きを取り上げて、時間と空間をつなぐ今日的な方法が、グローバル化過程に関連する新たな機会(あるいはその欠如)によって形づくられているということ、そしてそれがジェンダー化しているということを示す予定である。移動をジェンダーの視点で議論することは、同化や統合といった問題、および伝統-近代論争に新しい光を当てることにもなる。さらに、ジェンダーが移動の傾向にどういった形で影響するのか、そしてジェンダーが男女の移動経験やその結果をどのように規定するのかを探究するために、異なる移動パターンを分析する。本セミナーでは、私個人の研究および著作を含め、ヨーロッパにおける国際移動とジェンダーにかんする複数の文献を適宜取り上げていく。

モロクワシチ先生の主な論文・編著作

1984 "The Overview: Birds of Passage are Also Women,"International Migration Review 18(4).
1987 Jugoslawische Frauen: Die Emigration -- und danach, Stroemfeld/Roter Stern.
1993 Bridging States and Markets: International Migrations of the Early Nineties, Sigma. (Co-editor and Contributor)
1993

"In and Out of the Labour Market: Immigrant and Minority Women in Europe,"New Community 19(3)

1994 Wanderungsraum Europa. Menschen und Grenzen in Bewegung, Sigma. (Co-editor and Contributor)
1996 Migrants. Les nouvelles mobilit市 en Europe, L'Harmattan. (Co-editor and Contributor)
1999 "La mobilit transnationale comme ressource,"Culture et Conflicts, 33-34.
2000 "Escaping Nationalism and Violence in Post-Yugoslav Space,"in R. Breckner, D. Kalekin-Fishman and L. Miethe eds., Biographies and Division of Europe, Leske + Budrich.

I. 2001年5月16日(水)
移動研究とジェンダー研究をつなぐ ―両者の接点を求めて―

移動研究の専門家と女性/ジェンダー研究の専門家たちは、ほとんど互いの研究領域を関連づけず、長い間別々の世界で研究を進めてきた。移動研究において、女性/ジェンダーの問題はどのように発展してきたか? 2つの研究領域を交流に導いたのは、どのような問題構制だろうか? 両者はどの点で依然として互いに距離を隔てているのだろうか?
コメンテーター: 石塚道子(本学)
司会: 伊藤るり(本学)

II. 2001年5月23日(水)
ゲスト・ワーカーから超国境的移動者へ ―1989年を分岐点として―

ヨーロッパにおける1989年以前と以後の移動パターンを検討する。移動パターンは、「(還流的)労働力移動システム」とその後のゲスト・ワーカー定住から、ヨーロッパ再編に伴ってより多様化したモデルへ変化した。これらの移動パターンにおいて、男女はどのような役割を担っているか(あるいは担うと想定されているか)? 移民政策、そして移動パターン分析そのものの根底に根強くある、移動者のジェンダー化された表象とはどのようなものか?
コメンテーター: 交渉中
司会: 伊藤るり

III. 2001年6月6日(水)
ヨーロッパ経済への「他者化された」女性の編入
―衣服産業、家事代行業、性産業―

ヨーロッパ経済への「他者化された」女性の編入を示す3つの典型的なセクター(衣服産業、家事代行業そして性産業)を取り上げる。これらに共通する「労働」の捉え方とはどのようなものか? 女性のジェンダー化され、人種化された表象は、女性のこれらのセクターへの編入にどう影響しているのか? 日本、およびアジア太平洋地域の状況と比較は可能か?
コメンテーター: 足立眞理子(専修大学非常勤講師)
司会: 伊藤るり

IV. 2001年6月13日(水)
女性移動者の抵抗戦略
―サン・パピエ、自営業、通勤としての移動―

移動過程と世帯内権力配分はどのように関連するか? 移動は平等の拡大をもたらすのか? 賃労働が移動する者、そして残留する者に与える影響とはいかなるものか? 女性たちが越境行為と同盟関係の構築をつうじて、どのように既存秩序に挑戦しているのかを考察する。具体的事例として、フランスにおけるサン・パピエ運動、自営業女性、旧社会主義圏ヨーロッパにおける近年の通勤としての移動を取り上げる。この点で日本とはどのような比較が可能か?
コメンテーター: 稲葉奈々子(茨城大学)
司会: 伊藤るり

V. 2001年6月20日(火)
強制移動と移り変わるアイデンティティ
―ユーゴスラヴィアのバイナショナル・カップルをめぐって―

マルチナショナルな国家の暴力的解体を経験したユーゴスラヴィアにおけるバイナショナル・カップル――かつては「ユーゴスラヴィア人アイデンティティの柱」とみなされ、戦時には暴力と迫害の主要な標的となった――を考察する。暴力のジェンダー化された側面、また、暴力と武力抗争を逃れるためのジェンダー化された戦略を考える。
コメンテーター: 竹中千春(明治学院大学)
司会: 伊藤るり

夜間セミナー要項

開催日時: 2001年 5/16, 23, 6/6, 13, 20(全5回、いずれも水曜午後6時半~8時半)
開催場所: お茶の水女子大学人間文化研究科棟6階大会議室(5/16,5/23)
お茶の水女子大学附属図書館第二会議室(6/6、6/13、6/20)
(開催場所は、図書館が工事中の期間は人間文化研究科棟で行います。但し6月6日については、工事が終了していない場合もありますので、変更する場合はセンター入り口に張り紙をしますので、ご注意ください)。
使用言語: 原則として英語(ただし、必要に応じて適宜通訳をつけます)
参加費: 無料。当日配布するレジュメ・資料について、実費を申し受けます。
交通機関: 丸の内線茗荷谷駅、もしくは有楽町線護国寺駅から徒歩10分。
申し込み方法: お申し込みは、別紙のファックス送信用フォーマットをご利用ください。E-mailにてお申し込みになる場合は、お手数ですが、別紙の項目を参考にして、参加日や連絡先等はっきりわかるようにご記入ください。
申し込み締切: 5月8日(火)午後2時必着
申し込み先: お茶の水女子大学ジェンダー研究センター 夜間セミナー事務局 宛
住所 :〒112-8610 文京区大塚2-1-1
Fax: 03-5978-5845 URL: http://www.igs.ocha.ac.jp/ 
E-mail: igs@cc.ocha.ac.jp(件名に「夜間セミナー参加」と明記してください)

Columns

★昨3月22日(木)午後1時半より、お茶の水女子大学「グローバル化とジェンダー規範」研究会と本学ジェンダー研究センターの共催により、「アジアにおけるグローバル化とジェンダー」と題するシンポジウムを開催いたしました。

タニ・E・バーロウ(IGS外国人客員教授,ワシントン大学女性学部教授)「再地域化過程におけるアジア、ジェンダー、そして学術研究」を基調報告に、パネリスト報告として、吉村真子(法政大学社会学部助教授)「グローバル化のもとでの東南アジアにおける労働とジェンダー――マレーシアのケース」、戒能民江(本学生活科学部教授)「台湾におけるDV防止法の制定とグローバル化」、舘かおる(本学ジェンダー研究センター教授)「<日本女性>の複層化と国際人権レジーム」の3本が発表されました。このほか、石塚道子(本学文教育学部教授)、田嶋淳子(淑徳大学社会学部教授)両氏にもコメンテーターとしてご登壇いただきました。

平日にもかかわらず、盛況なシンポジウムとなりましたこと、ご参加いただいた皆さまには心より感謝申し上げます。
なお、タニ・E・バーロウ教授は日本での滞在を終えられ、3月29日、ご帰国の途につかれました。

Information

★タニ・E・バーロウ外国人客員教授の小論「グローバリゼーション、中国、国際フェミニズム」河村昌子訳が『現代思想』3月号「特集 中華世界の行方」に掲載されました。現代中国フェミニズムを解説、紹介する示唆に富んだ内容となっています(米国の代表的女性学・ジェンダー研究学術雑誌として知られるSigns「特集 ジェンダーとグローバリゼーション」(近刊)にも掲載予定)。また同教授は、3月4日(日)、大阪女子大学女性学研究所で開催された2000年度第3回コロキアムに招聘され、基調講演「地球規模の展望の枠組みとしてのフェミニズム国際主義を問いなおす」Questioning International Feminism in a Global Frameを発表なさいました。冷戦終了後、唯一の超大国となったアメリカ合州国が推進する「国際フェミニズム」を批判的に検討する視点を示唆するとともに、ワシントン大学女性学部において、このテーマで3年間演習を行った教育経験に基づいた興味深い知見が披露されました。このときの講演原稿は、近々、大阪女子大学女性学研究センター論集『女性学研究』に掲載される予定です。

★IGS年報『ジェンダー研究』第4号, 2001年3月 を刊行いたしました。
本学英文科とIGSの共催による、2000年10月、イヴ・K・セジウィック(ニューヨーク市立大学英文科教授)公開講演の原文(英文)――翻訳は、「クィア理論をとおして考える」竹村和子・大橋洋一訳『現代思想』2000年12月号, vol.28-14, 青土社。に掲載されています――をはじめ、1999年度IGS客員教授パトリシア・ウベロイ(デリー大学経済開発研究所「社会変動と開発」部門教授)、2000年度IGS客員教授アン・ウォルソール(カリフォルニア大学アーヴァイン校歴史学教授)論文ほか、研究報告、書評、IGSの一年間の活動内容を記した彙報等が掲載されています。

★ジェンダー研究センター(旧女性文化研究センター時代より)の研究プロジェクトの一つとして,十数年間活動してきた「頼梅し(らいばいし)日記研究会」が,大口勇次郎編『頼梅し日記の研究』(2001年3月)を刊行いたしました。頼静子(号・梅し)は,頼山陽の母親,広島藩儒者春水の妻として知られた人物。研究報告は,天明5年(26歳)から天保14年(84歳)で亡くなる直前までほとんど欠くことなく記された「日記」(1987年より当センターには,頼春水・梅しの日記や関係史料のマイクロフィルムが貴重資料として保存されている)をめぐっての,様々な領域からの研究論文集となっています。

★お茶の水女子大学2000(平成12)年度重点研究プロジェクト「グローバル化とジェンダー規範」の中間研究報告書がまとめられました。IGSは「グローバル化とジェンダー規範」研究会の事務局となっております。研究分担者の中間報告ほか、研究会の記録、中間報告時点での参考文献データが掲載されています。

発行:お茶の水女子大学ジェンダー研究センター (Institute for Gender Studies, the)
〒112-8610 文京区大塚2-1-1  Fax: 03-5978-5845
E-mail: igs@cc.ocha.ac.jp  URL:http://www.igs.ocha.ac.jp/

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