ジェンダー研究の国際的拠点 - お茶の水女子大学 ジェンダー研究センター
 

IGS通信4号

2001年8月8日

お茶の水女子大学ジェンダー研究センターは、下記の要領で公開講演会を開催いたします。大学内外に開かれた講演会ですので、どうぞふるってご参加ください。

ミリヤナ・モロクワシチ=ミュラーIGS客員教授 公開講演会のお知らせ

「ポスト・コミュニズム時代のヨーロッパにおける人の移動とジェンダー」
Post-Communist Migrations in Europe and Gender

ミリヤナ・モロクワシチ=ミュラー
お茶の水女子大学ジェンダー研究センター外国人客員教授
CNRS上級研究員・パリ第10大学教授

【講演にあたって】

 1989年、ベルリンの壁崩壊後、共産主義諸国の体制はつぎつぎに解体し、ヨーロッパの地図は大きく塗りかえられた。そして、これに伴い、人の移動がかつてない規模で起こった。ヨーロッパにおける新しい移民の時代の到来である。ヨーロッパにおける移動パターンは、それまで労働移動が中心であったが、いまでは移動パターンの多様化が著しくなっている。超国境通勤者、難民、「帰還民」などはきわだった増加が見られる新しいカテゴリーである。
また、人の移動はかつて男性を主流としてきたが、今日ではもはやそうとはいえない。ポスト・コミュニズム時代への移行は、市場という新しい条件、あるいは故国における新興の民族主義的な企てとその支配的言説から逃れようとする女性たちのあいだに、大量の移動を引き起こした。
ヨーロッパにおける人の移動のこの新しい局面における主要なトレンドとはなにか?それはどのような意味で、「城塞ヨーロッパ」への政治的リスポンスといえるのか?そして、いまや強化される一方の規制に対して、移動者がとる新しい抵抗の戦略とはなにか?これらは、私が今回の講演で取り上げたいと考えているいくつかの問いである。

ディスカッサント: 姫岡とし子(立命館大学教授)、伊藤るり(本学IGS教授)
司 会: 舘かおる(本学IGS教授)

ご案内

開催日時: 2001年9月22日(土)午後3時~5時半
開催場所: お茶の水女子大学理学部3号館7階701教室
使用言語:

講演は英語で行われます。通訳はつきませんが、講演内容の和訳を会場にて配布します。

参加費: 無料。 当日、資料代として1000円を申し受けます。
交通機関: 丸の内線茗荷谷駅、もしくは有楽町線護国寺駅から徒歩10分。
申し込み方法: 別紙ファックス送信用フォーマット(gif形式32k)をご利用ください。E-mailでお申し込みになる場合は、フォーマットを参考に、お名前・連絡先等をはっきりとわかるようにご記入ください。
申し込み締切: 9月10日(月) 
会場・資料準備の都合上、できるだけ締切日までにお申込ください。
申し込み先:

お茶の水女子大学ジェンダー研究センター
9月22日公開講演会事務局宛(宛先を必ずご明記ください)
住所 :〒112-8610 文京区大塚2-1-1
Fax: 03-5978-5845 URL: http://www.igs.ocha.ac.jp/ 
E-mail: igs@cc.ocha.ac.jp(件名に「夜間セミナー参加」と明記してください)

ミリヤナ・モロクワシチ=ミュラー教授送別会のお知らせ

本年4月に当センター外国人客員教授として着任されたミリヤナ・モロクワシチ=ミュラー教授の滞在も、いよいよ9月末で終了します。上記公開講演会の終了後、午後6時15分から、モロクワシチ=ミュラー先生を囲み、懇親を兼ねた送別会を開催いたします。会場は、本学附属図書館第二会議室です。

なお、送別会への参加費として別途1500円を申し受けます。参加を希望される場合は、別紙ファックス送信用フォーマットを参考に、9月10日(月)までに当センター宛にお申し込みくださいますようお願い申し上げます。

タイのアジア工科大学大学院における「ジェンダーと開発」プログラム

伊藤るり(本学IGS教授)

6月28日から7月12日にかけての2週間、タイのアジア工科大学大学院(Asian Institute of Technology, AIT)を訪れました。この大学は1959年にアジア地域における工学系の高等教育を担うべく創設され、67年に、学位を授与できる独立した国際的高等教育機関として発足しました。その運営は各国政府、国際機関、財団、企業等の援助によって支えられ、日本政府も発足当時から協力してきたとのことです。場所はバンコク市から北に42キロ行ったところにあり、160ヘクタールという広大な土地に恵まれています。客員教授として活躍している大沢真理さん(東京大学教授、本学ジェンダー研究センター研究協力員)によると、このキャンパスは緑が少ないバンコクでは宮廷に次ぐ貴重な緑地なのだそうです。火炎樹、ブーゲンビリアなど、南国の木々が並び、その木陰で学生が読書にふけっていたり、池や運河にも色さまざまの花を垂直に咲かせた水連が浮いていて、独特の雰囲気があります。午後の遅い時間に、空が一転して暗くなり、バケツをひっくり返したような迫力あるスコールが降るのもまた味わい深いものがあります。

今回、この大学を訪れたのは、大学院に設けられている「ジェンダーと開発」研究分野(Gender and Development Studies、通称GenDev)の授業を担当するためでした。開発の過程とそれをめぐる諸問題をジェンダーの視点から分析、検討する研究領域は欧米諸国ではすでに20年近くの歴史をもっていますが、日本では必ずしもまだよく知られているとはいえません。この分野の大学院教育を制度的に進めているのは、日本では1997年に開設された本学大学院の「開発・ジェンダー論コース」だけのようです。AITのGenDevは「環境・資源・開発研究科農村開発・ジェンダー・資源専攻」のなかに設けられたプログラムで、同じく1997年末から学位授与(修士[M.Sc.]号、博士[Ph.D.]号)が可能な高等教育機関として承認されています。ただし、その前身は人間居住開発研究科のWIDプロジェクトであって、これは1991年に、まずカナダの援助を受けて発足し、のちにノルウェー、オランダ、日本からも財政的な支援を受けて拡大してきたのだそうです。現在では、教員定員数が4名(現在の教員の国籍内訳はアメリカ、日本、フィリピンで、あとの1名は空席)、そのほかに各国から客員教授(3名)を招いて、全部で1年に11 ~12科目(3学期制で、毎学期3~4科目)を提供しています(別表参照)。
また1997年から国際的な査読付き学術雑誌として『ジェンダー、テクノロジー、開発(Gender, Technology and Development)』を創刊し、セージ出版(Sage Publications)と提携しながら年3回発行しています。

【別表】 AIT/GenDevの2001年度科目一覧

学期
科目
必修/選択
1月

「ジェンダーと開発」概論

必修

ジェンダー、テクノロジーと経済開発

必修

社会、テクノロジーと健康

必修
5月

文化、知識とジェンダー関係

必修

新しいテクノロジー、工業化とジェンダー

選択

ジェンダー分析とジェンダー平等の視点に立った開発プランニング

必修
9月

発展する都市部アジア--ジェンダー・パターンの変容、市場とメディア--

選択

企業経営組織におけるジェンダー

選択

ジェンダー・イデオロギーの変革と社会

選択

ジェンダー、農村の社会変動と自然資源管理

選択

 

以上のほかに「社会調査論」「開発学概論」などは他のプログラムと共通の科目となっている。

GenDevは、工科大学という組織を反映して、その教育目的を「開発、環境悪化、そしてテクノロジーの諸過程が男女にどのような異なる影響・効果をもたらすかを批判的に検討すること」にあると述べ、教育の具体的な目標として以下の諸点を掲げています。

a) 科学・テクノロジーのリテラシーにおけるジェンダー格差の縮小、
b) 科学、テクノロジー、環境、資源管理関連職業におけるアジア出身女性の参加拡大、
c) AITのあらゆる学問領域においてジェンダーの視点を取り込んでいくこと、
d) ジェンダー認識と科学的知識の普及を通じて、アジアにおける各種職業、草の根における女性のエンパワーメントに寄与すること、
e) 科学・テクノロジーの計画化、意思決定過程への参加によってもたらされる、一般社会における女性の地位向上と権威拡大に寄与すること(以上、GenDevのホームページから)。

なお、卒業生の多くは実際に、出身国の政府、NGO、あるいは国際機関やINGOの中枢部で活躍していると聞きます。今回、私はバベット・レスレシオン助教授と共同担当の「文化、知識、そしてジェンダー関係(Culture, Knowledge and Gender Relations)」の授業を4回、集中講義のかたちで担当しました。

受講者は16名(女性14名、男性2名)。国籍はインド、バングラデシュ、ネパール、ベトナム、ラオス、カンボジア、ビルマ、イギリス、スペイン、アメリカ合衆国と実に多彩で、タイにいながらタイ人の学生が一人もいないことが印象的でした。これはAITの学費が1学期5,000ドルと安いとはいえず、奨学金をもらえる留学生でないとなかなか受講できないということなのかもしれません。南アジア、東南アジア出身者が多いことは予想していましたが、ヨーロッパからの学生もいるということは意外でした。研究科長のお話によると、ヨーロッパ連合(EU)とAITのあいだに交換協定があって、この協定に基づいて年間30名程度の学生がヨーロッパから送られてくるということでした。こうしたなかでの授業の共通言語は英語ですが、当然、英語を母語とする者とそうではない者とのあいだに理解力や表現力に格差ができてしまうので、たとえばアメリカ人やイギリス人――ウガンダ出身のアフリカ系イギリス人ですが――が授業のあとや休みのあいだに補講よろしく解説をするといったシーンが見られました。
私の授業の内容は、ナショナリズムと女性のシティズンシップ、グロバーリゼーションと女性の国際移動という2部から構成されていて、各テーマについて2回の授業を行うというものでしたが、おおむねリラックスした雰囲気で、それぞれの出身社会の事例について発言をしてもらうように努めました。教える側としてもいろいろと学ぶことの多い有意義な時間であったと思っています。また、可能であれば、近い将来、本学大学院の「開発・ジェンダー論コース」とGenDevのあいだで教員と学生の交流を実現させたいと考えています。

「開発・ジェンダー論コース」としては、その手始めとして、来る2002年3月にGenDevの学科主任、日下部京子先生が2週間のジェンダー・ワークショップを開催するので、このワークショップへの参加者を本学院生から募り、これへの参加と課題作成をもって本学大学院の単位として認定したいと考えています。内容は決まりしだい、ホームページ等でお知らせいたします。


発行:お茶の水女子大学ジェンダー研究センター (Institute for Gender Studies, the)
〒112-8610 文京区大塚2-1-1  Fax: 03-5978-5845
E-mail: igs@cc.ocha.ac.jp  URL:http://www.igs.ocha.ac.jp/

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