ジェンダー研究の国際的拠点 - お茶の水女子大学 ジェンダー研究センター
 

IGS通信13号

2003年10月14日

21世紀COEプログラムに「ジェンダー研究のフロンティア」が採択されました。

2003 年度文部科学省「21世紀COEプログラム」に、ジェンダー研究センター、大学院人間文化研究科ジェンダー研究関連3専攻が申請した「ジェンダー研究のフロンティア ―〈女〉〈家族〉〈地域〉〈国家〉のグローバルな再構築―」(分野:学際、複合、新領域)(拠点リーダー:戒能民江大学院人間文化研究科教授)が採択されました(7月18日付発表) このプログラムは「我が国の大学が世界のトップレベルの大学と伍して、教育及び研究水準の向上や世界をリードする創造的人材を育成していくために、競争的環境を醸成し、学問分野ごとに世界的な研究教育拠点の形成を重点的に支援することにより、活力に富み、国際競争力のある世界最高水準の大学づくりを推進することを目的」とするものです。お茶の水女子大学では、COE(Center of Excellence)の名にふさわしいジェンダー研究拠点を、ジェンダー研究センターと大学院人間文化研究科との協力により、2003年度より5年間にわたり、築いていきます。

IGS通信では、このプログラムで行なわれる研究会についても適宜お知らせしてまいります。

第14回夜間セミナーのお知らせ

お茶の水女子大学ジェンダー研究センター(IGS)主催 第14回夜間セミナー
「映画にみるジェンダー化された「中国」―ポスト冷戦時代の文化政治―」

戴錦華(ダイジンハ)
お茶の水女子大学ジェンダー研究センター外国人客員教授
中国 北京大学比較文学・比較文化研究所教授

お茶の水女子大学ジェンダー研究センターでは、2003年9月から12月まで、中国北京大学比較文学・比較文化研究所教授の戴錦華(ダイ・ジンハ)先生を当センター客員教授としてお迎えすることになりました。 
戴教授の専門及び研究は、1980年代の中国において比較文学・文化から出発し、中国に本格的なフェミニズム文学批評、映画批評をもたらした功績を高く評価されています。
孟悦と共著の『浮出歴史地表:現代中国婦女文学研究』(1989)は、フェミニズム文学批評の先駆的著書として高く評価され、1994年に中国哲学社会科学優秀賞を受賞しました。近年は、ジェンダーの視点を人種、階級、イデオロギー、文化等との多角的な関係性に置いて、明晰で巧みに論じる研究スタイルを確立しておられます。『猶在鏡中』(1999)においては、1980年代から 1990年代にかけての自己の研究の模索を語りながら、現在の主要な問題は、商業化の問題、メディア権力の問題と述べ、新たな国研究の可能性を提言されています。
Cinema andDesire: Feminist Marxism and Culture Politics in the Work of DaiJinhua(2002)では、文革世代を批判する「第5世代」及び「第6世代」の監督について論じることで、映画批評の今後の方向性を示唆しています。
今回の3ヶ月間の来日に際しては、ポスト冷戦時代の今日的情況を見据え、アジアに居住する人々との対話をはかることを強く希望していらっしゃいます。

当センターでは、戴先生の来日に伴い、「映画にみるジェンダー化された『中国』─ポスト冷戦時代の文化政治─」のテーマのもと、下記概要の要領で夜間セミナーを開催いたします。セミナーの前には中国映画の上映会も行ないます。大学内外に開かれたセミナー・上映会ですので、どうぞふるってご参加ください。

第14回夜間セミナー実行委員会: 舘かおる、小林富久子、宮尾正樹
事務局: 秋林こずえ、長谷川和美

セミナーを始めるにあたって ─ 戴 錦華(Dai Jinhua) ダイ ジンハ

この夜間セミナーでは全5回を通じ、映画テクストを利用して、20世紀最後の20年における中国社会の激変の過程とジェンダー関係の変遷過程を紹介し、ジェンダー役割が社会的修辞としてどのように利用されてきたかを検討する。20年間における中国社会の変化、映画テクストに見られるジェンダーの語りの変化について考察を加えることによって、欧米のフェミニズム理論とジェンダー理論に対する自らの考え方を提示したい。また、グローバル化、ポスト冷戦とポスト社会主義という文脈の中にこの議論を置いて、階級・ジェンダー・エスニシティの位相、またそこに現れ、あるいは隠蔽された社会実践の位相を示し、フェミニズムとジェンダー理論が今日の世界に対してもつ知的資源としての価値を再考する。

コメンテーター紹介

白井啓介(文教大学教授)

研究領域は、中国現代演劇「話劇」、「中国映画の歴史的展開と個性の形成についての戯曲の表現手法」の探究。また、「古井戸」、「芙蓉鎮」「紅いコーリャン」「息子の告発」「スケッチ・オブ peking」などの著名な中国映画の字幕翻訳を行ない、中国映画を日本に紹介した多数の論考がある。

斉藤綾子(明治学院大学助教授)

研究領域は、映画理論、映画史、女性映画論。特に、フェミニズム、精神分析、ジェンダー/セクシュアリティなどの思想をふまえて、映画とそれを取り巻く制度を考察。共編著『新映画理論集成1』(1998)ではローラ・マルヴィ「視覚的悦楽と物語映画」、テレサ・ド・ローレティス「女性映画再考」を訳出・解説、共著にEndless Night, Cinema and Psychoanalysis, Parallel Histories (1999)『映画女優 若尾文子・『映画の政治学』(2003)などがある。

水田宗子(城西国際大学学長)

研究領域は、日米比較文学、フェミニズム文学批評論。日米の女性の自己表現研究。著編書に『ヒロインからヒーローへ』(1992)、『女性の自己表現と文化』(1993)、『山姥たちの物語』(2002)、訳書にE・アン・カプランの『フェミニスト映画-性幻想と映像表現』(1985)、『フィルム・ノワールの女たち』(1988)などがある。現在は、城西国際大学学長とジェンダー・女性学研究所長を兼任。

高橋哲哉(東京大学教授)

研究領域は、ジャック・デリダと脱構築、戦争やジェノサイドに関する歴史と記憶、責任等に関する表象と言説のポリティクス、政治哲学における正義論、正戦論。著書・編書に『記憶のエチカ』・『〈ショアー〉の衝撃』(1995)、『戦後責任論』(1999)、『歴史/修正主義』(2001)などがある。近著『心と戦争』(2003)では、今の時代の根底にある国家戦略を思想的に分析。

坂元ひろ子(一橋大学教授)

研究領域は、中国近現代のアイデンティティ・ポリティクス(エスニシティとジェンダー)、中国思想文化史。今日における日中韓のナショナリズムや欧米から転移したオリエンタリズムの捻れとグローバリズムの問題にむきあい、アジアを共生のための批評空間とすべく、『アジア新世紀』全8巻の編集委員として「総合討論」と論文により新たな課題を提起。

講義内容

I. 2003年10月27日(月)
「女」の物語 ―激変の歴史―

第一回目においては、『神女』、『新女性』、『小城之春』、『紅色娘子軍』、『李双双』、『小街』など、中国映画史上代表的な映画を紹介することによって、20世紀中国の女性解放の歴史を素描する。そして、ジェンダー研究の角度から、中国女性文化、映画の中のジェンダー言説の形成と変遷過程を考察する。具体的には、「家出したノラ」、「奴隷になった母親」、「新女性の困惑」、女性戦士、偉大な時代が過ぎ去った後の後ろ姿、などのような、女性に与えられた役割及びその描写のしかたの変遷の中から、激変する中国の社会と歴史を透視し明らかにしたい。報告者の基本的な立場は、中国における女性解放の歴史と社会のジェンダー状況を考察するには、二つの重要かつ基本的な前提があるということである。第一に、中国の女性解放運動は中国の近代化とともにあり、男性思想家及び政治家が一貫して相当特別な役割を果たしてきたこと。第二に、中国の女性解放の進展は現代中国の社会変化と絡み合っており、それゆえ、冷戦からポスト冷戦という世界情勢の激変と関連していること。そのため、20世紀の中国における、そして20世紀の中国映画における「女の物語」は、この激変する歴史の一側面であると同時に、このような歴史を書く(新たに書く)重要な手段でもあった。欧米に起源したフェミニズムとジェンダー理論は、我々がこの歴史を思考し観察するにあたって、有力な視点と角度を提供した。しかし、この歴史自体が同時に欧米のフェミニズム理論に挑戦と補足を行ってもいるのである。 。

コメンテーター: 白井啓介(文教大学教授)
司会: 宮尾正樹(本学教授)、小林富久子(早稲田大学・IGS国内客員教授)

Readings: Dai, Jinhua " 'Human, Woman, Demon': A Woman's Predicament," Cinema and Desire: Feminist Marxism and Cultural Politics in the Works of Dai Jinhua. Eds. By Jing Wang and Tani E. Barllow. New York: Verso, 2002. 151-171.
  Kristeva, Julia. "Socialism and Feminism." About Chinese Women. Trans. By Anita Barrows. London : Marion Boyars, Reprint edition, 1997. 100-111.
第1回
上映会映画:
『神女』(『女神』)  上映時間4:30~6:00pm
1934年 中国 (監)(脚) 呉永剛(ウーヨンカン) 無声映画
(〈  〉の中は日本語版タイトル 以下同じ)

II. 2003年11月6日(木)
「扮演」の物語  ―女性主体の苦境―

今回は、中国映画史、大衆文化史を貫く「女侠」(武芸に長じた女性)の形象と、社会主義期の代表的な映画『戦火中的青春』、女性映画の代表作『人鬼情』(『舞台女優:人・鬼・情』)、アン・リーの『臥虎蔵龍』(『グリーン・デスティニー』)を分析することによって、近代社会における女性の生存状況及び女性主体が浮上する際に直面した困難な局面を検討する。三つの側面から近代社会における女性のジェンダー役割と「扮演」にアプローチしたい。まず、映画と大衆文化の中の「女侠」形象に着目すると同時に、前近代中国の古典劇、特に京劇の中の「刀馬旦」(歌やせりふに重点を置き、武芸に長じた女性に扮する女形役)の伝統も視野に入れ、中国伝統社会のジェンダー観を検討する。また、それがいかに「近代化」あるいは「西洋化」されていったのか、ジェンダーと権力の関係の変化過程、「女侠」形象の中の行動者、正義の執行者としての女性が文化と物語の空間に占めた社会的機能と位置を論ずる。それが欧米文化の中の女性形象とは異なるものであること、そして中国父権社会の類似の女性表現の借用、その戦略的活用について論ずる。次に、社会主義制度のもとでの女性の生存状態やその文化的表現を分析し、女性の全面的な解放と父権秩序の強化との間の緊張関係を検討し、そこにおけるジェンダー秩序と複数の役柄に扮して演じることについて論ずる。さらに、中国の社会と文化の現実と結びつけ、また映画『人鬼情』の分析と結びつけて、近代の女性/新女性/解放された女性が置かれる「花木蘭的状況」――男性役を演じること――について検討する。これらの議論を通じ、女性主体の苦境や、女性の主体性の空間とその限界を示したい。

コメンテーター: 斉藤綾子(明治学院大学助教授)
司会: 宮尾正樹(本学教授)、小林富久子(早稲田大学教授・IGS国内客員教授)

Readings: Dai, Jinhua. "Gender and Narration: Women in Contemporary Chinese Film." Cinema and Desire: Feminist Marxism and Cultural Politics in the Works of Dai Jinhua. Eds. By Jing Wang and Tani E. Barllow. New York: Verso, 2002. 99-150.
  Radhakrishnan, R. "Nationalism, Gender, and Narrative of Identity." Nationalisms and Sexualities. Eds. By A. Parker, M. Russo, D. Sommer, and P. Yaeger. New York: Routledge, 1992. 77-95.
  Gremaux, Rene. "Mannish women of the Balkan mountains: Preliminary notes on the 'sworn virgins' in male disguise, with special reference to their sexuality and gender-identity." From Sappho to De Sade: Moments in the History of Sexuality. Ed. By Jan Bremmer. New York: Routledge, 1989. 143-172.
第2回
上映会映画:
『人鬼情』(『舞台女優―人・鬼・情』) 上映時間4:15~6:00pm
1987年 中国 (監)(脚)  黄屬斧(ホアンシューチン) 日本語字幕付き

III. 2003年11月12日(水)
「他者」の物語 ―主体・アイデンティティとジェンダー―

第三回目では、20世紀最後の20年間に男性が書いた作品における女性に重点を置き、女性が他者のイメージ――男性自我の他者、他者の自我――として、男性の社会的主体性及び新たな主流イデオロギーの構築/再構築の過程を表現してきたことを論ずる。まず、中国の「新時期」――改革開放の進展に伴って生じた男権秩序の再建と、社会文化における「女性を書き直す」過程――に着目する。中国映画のいわゆる「第四世代」の監督たちの代表作を分析することによって、女性形象がどのように男性の政治的反逆、文化批判の「仮面」となり、男性主体が蒙った政治的な暴力と主体性の喪失を表現するのに用いられたのかを論ずる。男性主体はどのように、美しくそして不幸な女性の形象を借りて、自分自身と政治権力や社会との関係を新たに想像し構築したのか。次に、「第五世代」の監督である張藝謀、陳凱歌の製作した映画(特に、『大紅灯籠高高挂』〈『紅夢』〉、『覇王別姫』〈『さらば、わが愛』〉)を分析の切り口にし、ポスト冷戦、グローバル化の文脈において、中国の男性知識人、芸術家たちがどのように新しい語りとジェンダーの戦略を用いて、政府/民間、東洋/西洋、中国/世界、伝統/近代、芸術/市場、反逆/屈服など多重のイデオロギー的制限と要請のなかで、自らの文化的アイデンティティと主体としての位置を確認し、書き換えているのかを検討する。彼らは女性を自我の他者として描く一方、欧米の東洋や中国に対する眼差しを内面化する過程において、他者の自我とでも言うべきものを受け入れた。彼らは自覚的にあるいは不承不承に「エスニシティ」の権力構造における「女性」の位置を受け入れたのである。それは西洋の眼差しの中の他者――東方あるいは社会主義の寓言――の物語であり、また、男性主体の権力/反抗の想像の中の他者――女、あるいは歴史の暴力の犠牲者と共犯者――の物語である。

コメンテーター: 水田宗子(城西国際大学学長)
司会: 宮尾正樹(本学教授)、小林富久子(早稲田大学教授・IGS国内客員教授)

Readings: Chow, Rey. "The Force of Surfaces: Defiance in Zhang Yimou's Films." Primitive Passions: Visuality, Sexuality, Ethnography, and Contemporary Chinese Cinema. New York: Columbia University Press, 1995. 142-172.
  Mohanty, Chandra Talpade. "Under western Eyes: Feminist Scholarship and Colonial Discourses." Third World Women and the Politics of Feminism. Eds. By Chandra Talpade Mohanty, Ann Russo, Lourdes Torres. Bloomington and Indianapolis: Indiana University Press, 1991. 51-80.
第3回
上映会映画:
『大紅灯籠高高挂』(『紅夢』) 上映時間4:00~6:05pm
1991年 香港/中国(監) 張藝謀(チャンイーモウ) 日本語字幕付き

IV. 2003年11月19日(水)
「物語」の中のもうひとつの物語 ―ポスト社会主義時代のジェンダーと階級―

四回目は、90年代に作られた中国映画『紅粉』(『べにおしろい』)、『漂亮媽媽』(『きれいなおかあさん』)、『夏日暖洋洋』(『アイ・ラブ北京』から、 90年代中後期における、中国社会の急激な資本主義化――私有化、市場化、グローバル化――の過程を論ずる。その過程は直接的には社会における財産の再配分と階級の再編として現れた。このような実際には非常に残酷な階級分化の過程で、「女性」という集団は間違いなく社会の犠牲者として「最適役の」集団に「当選した」。しかし、女性やジェンダーに関する議論は中国/「世界」、冷戦/ポスト冷戦、「進歩」/「後退」、都市/農村の多重な座標軸のなかにいっそう深く見失われてしまった。映画や大衆文化のなかで、ジェンダーは大変有効な社会的修辞法として、貧富の差が急激に拡大していく過程を隠蔽した。その要因の一つは、ポスト社会主義の政権が、資本主義化を全力的に推進しながら、「社会主義」という名の統治の合法性を語ることをタブー視し、あからさまな階級言説を回避した結果,ジェンダーが一種の「婉曲」な社会的修辞法として成立したことにある。女性と女性に関する描写が次第に新しい主流イデオロギーの物語の中に組み込まれる一方、女性と社会の底層による映画エクリチュールが中国社会における階級分化の現実をたずさえて水面に浮かび上がってきた。今回は、 1990年代中国社会の激変の現実を描き討論する中で、ジェンダーと階級という「おなじみのテーマ」を提起し、問い直すことにより、ポスト構造主義、ポスト近代という文脈のなかのイデオロギーと「大きな物語」の機能と役割について考えたい。

コメンテーター: 高橋哲哉(東京大学教授)
司会: 宮尾正樹、舘かおる(本学教授)

Readings: Spivak, Gayatri. "The New Subaltern: A Silent Interview." Mapping Subaltern Studies and the Postcolonial. Ed. By Vinayak Chaturvedi. London: Verso, 2000. 324-340.
  Lau, Kin Chi. "Developmentalist Discourse and Representation of Rural China." China Reflected, Asian Exchange. 18, no.2 & 19, no.1 (2003): 1-11.
  Hartman, Heidi. "The Unhappy Marriage of Marxism and Feminism: Towards a More Progressive Union." Women and Revolution: A Discussion of the Unhappy Marriage of Marxism and Feminism. Ed. By Lydia Sargent. Boston: South End Press, 1981. 1-33.
  Young, Iris Marion. "Beyond the Unhappy Marriage: A Critique of Dual Systems." Women and Revolution: A Discussion of the Unhappy Marriage of Marxism and Feminism. Ed. By Lydia Sargent. Boston: South End Press, 1981. 43-70.
第4回
上映会映画:
『漂亮媽媽』(『きれいなおかあさん』) 上映時間4:30~6:00pm
1999年 中国(監) 孫周(スンジョウ) 日本語字幕付き

V. 2003年11月26日(水)
「男」の物語 ―ポスト冷戦時代の権力と歴史記述の中のジェンダー・アイデンティティー―

第五回は,現代中国の著名な映画監督たちの作った、始皇帝暗殺を題材とした三つの作品:『秦頌』(監督:周暁文)、『荊柯刺秦王』(『始皇帝暗殺』)(監督:陳凱歌)『英雄』(『ヒーロー』)(監督:張藝謀)などを分析し、世紀交替の際における中国社会の権力構造の変化を検討する。グローバル化の過程に介入し、全面的な経済発展が進むのに伴って、中国は次第に深刻化する社会内部の問題に直面し、新しい国際情勢のなかで微妙な位置に置かれるようになり、中国社会の特定の政治的保守勢力の再結合(勿論、進歩/退歩、改革/保守、左翼/右翼という方位図の失われた世界では、具体的な状況のなかで、いわゆる政治的保守勢力や反動勢力を定義しなければならない)が起こった。市場、多国籍資本、ニュー・リッチ階層と、共産党という名前の官僚政権が新たに結合して新しい権力利益集団となるのと同時に、中国の知識界は次第に深刻な分化を見せるようになった。1980年代の批判的な知識人(芸術家を含めて)のかなりの部分は次第に批判的な態度を放棄した。80年代特有の社会文化的修辞であった、「反逆の子」が父権秩序を攻撃するという物語が消え始め、男性の芸術家たちはもはや女性の仮面を借りて歴史批判と清算の作業をし続けるのではなく、逆に、揺るぎなき男性主体のアイデンティティ/「英雄」でもって権力のシンボルにアイデンティファイする語りをはじめた。90年代に始皇帝暗殺の物語が三つも現れたのは偶然ではなく、まさにこの時期の社会文化と語りの変遷の過程を明るみに出しているのである。しかし、留意すべきなのは、この類の映画は大部分が中国大陸の映画産業の製品であると同時に、その背後には国際資金と国際市場参入のねらいがあるということである。従って、映画テクストの中の男性の物語は同時に「中国」の物語の機能も担っているのである。今回は、大衆文化テクストにおいて、女性による歴史エクリチュールも同じ傾向をもつことも含めて、このいっそう複雑な現実の状況を語る。グローバル化という全く新しい現実の文脈のなかで、フェミニズムの資源としての意義と社会批判の可能性の空間を新たに探ってみたい。

コメンテーター: 坂元ひろ子(一橋大学教授)
司会: 宮尾正樹、舘かおる(本学教授)

Readings: Dawson, Graham. "The imperial Adventure Hero and British Masculinity: The Imagining of Sir Henry Havelock." Gender and Colonialism. Eds. By Timothy P. Foley, Lionel Pilkington, Sean Ryder, and Elizabeth Tilley. Galway: Galway University, 1995. 46-59.
  Johnson-Odim, Cheryl. "Common Themes, Different Contexts: Third world Women and Feminism." Third World Women and the Politics of Feminism. Eds. Chandra Talpade Mohanty, Ann Russo, and Lourdes Torres. Bloomington and Indianapolis: Indiana University Press, 1991. 314-327.
第5回
上映会映画:

『荊柯刺秦王』(『始皇帝暗殺』) 上映時間3:00~6:00pm
1998年 日中仏米合作 (監)  陳凱歌(チェンカイコー ) 日本語字幕付き

夜間セミナー要項

開催日時:

2003年10/27(月), 11/6(木), 11/12, 19, 26(以上水曜)
夜間セミナーは、全回とも6:30~9:00 pm

開催場所:

本学共通講義棟2号館2階201室(10/27の上映会のみ本学理学部3号館7階701室)

使用言語: 講義は中国語。日中逐次通訳つき(通訳: 王津、何イ)
参加費: 無料(ただし、当日配布する資料代をいただきます)
交通機関: 丸の内線茗荷谷駅、もしくは有楽町線護国寺駅から徒歩10分。大学構内入校の際、正門と南門にて身分証明書の提示を願いすることがあります。ご協力をよろしくお願い致します
申し込み方法:

お申し込みは、IGS通信の末尾に添付の申込用紙を利用するか、別紙のファックス送信用フォーマット(ms-word 形式)をダウンロードしてご使用ください。E-mailにてお申込みになる場合は、お手数ですが、別紙の項目を参考にして氏名・連絡先等をお知らせください。

申し込み締切: 2003年10月22日(水)午後4時必着
申し込み先: お茶の水女子大学ジェンダー研究センター 夜間セミナー事務局 宛
住所 :〒112-8610 文京区大塚2-1-1
Fax: 03-5978-5845 URL: http://www.igs.ocha.ac.jp/ 
E-mail: igs@cc.ocha.ac.jp(件名に「夜間セミナー参加」と明記してください)

Information

★お茶の水女子大学21世紀COEプログラム「ジェンダー研究のフロンティア」 一般公開セミナーのご案内(10月中)

●10月20日(月)15:00~20:00
講演会 「DV加害者再教育の方向性―アメリカの経験から学ぶこと」
【講師】スティーブンD・ボトキン/米国マサチューセッツ州・メンズ・リソースセンター代表
【講師】ラッセルC・ブラッドべリカーリン/米国マサチューセッツ州・MOVEプログラムマネージャー
【コメント】辻雄作/男のあり方を問う会
【司会】戒能民江/お茶の水女子大学教授
【場所】お茶の水女子大学生活科学部本館318号会議室

●10月25日(土)13:30~17:30
研究会「アジアにおける外国人家事労働者の処遇に関する国際比較」
【講師】安里和晃/日本学術振興会特別研究員・龍谷大学
「在日フィリピン人の相互扶助活動と文化継承のこころみ」
【講師】高畑幸/日本学術振興会特別研究員・大阪市立大学
【討論者】足立眞理子/大阪女子大学女性学研究センター教授・
            お茶の水女子大学非常勤講師
【討論者】小ヶ谷千穂/日本学術振興会特別研究員・一橋大学
【司会】伊藤るり/お茶の水女子大学教授
【場所】お茶の水女子大学附属図書館第二会議室

●10月30日(木)18:00~21:00
講演会「オーストリアにおけるDVへの取組み―NGOとジェンダー政策形成」
【講師】 レナーテ・エッガー/オーストリア「女性の家」セラピスト
【司会】 戒能民江/お茶の水女子大学教授
場所:お茶の水女子大学生活科学部本館318号会議室

*これらの研究会はどなたでも参加できます(申し込み不要)。
お問い合わせは、下記まで。

お茶の水女子大学COE「ジェンダー研究のフロンティア」事務局
TEL:03-5978-5547 FAX:03-5978-5548 E-mail:f-gens@cc.ocha.ac.jp

★ タニ・バーロウ平成12年度外国人客員教授の論文「中国のフェミニズムにおける『女性』の問題――1920,30年代の優生学的言説――」(加藤茂生訳)が『思想』2003年第5号に掲載されました。これはThe Question of Women in Chinese Feminism (Duke University Press近刊)を元にしていますが、ジェンダー研究センターにて行なわれたバーロウ先生の夜間セミナーにも関連する内容です。皆様ぜひご一読ください。

Columns

★ 去る7月8日(火)午後6時より、ドゥーリット・カウフマン博士(NY州立大学Stony Brook校(SUNYSB)言語学部助教授)をお迎えしての特別ワークショップ「女性のエンパワーメントと語学教育」を開催いたしました。カウフマン博士が“Development Children's Language”をテーマに基調講演をなさり、その後、本学大学院博士後期課程ジェンダー論講座の徐阿貴さんに“Education and Empowerment of Migrant Women: A Case of 1st generation Korean women in Japan”のテーマで報告をしていただきました。高知から駆けつけてご参加くださった方もあり、活発な議論はその後の懇親会まで続きました。ご参加、ご協力いただきました皆様には心より感謝申し上げます。

★21世紀COEプログラム「ジェンダー研究のフロンティア」事務局が開室いたしました。去る9月9日、本学人間文化研究科棟の入口にCOE研究拠点の看板が掲上されました。
また、「ジェンダー研究のフロンティア」の事務局が本学人間文化研究科棟の1階102室に開室いたしました。お茶の水女子大学にお越しの際にはどうぞ足をお運びください。

★4 月から当センター外国人客員教授として着任されたジョセフィン・ホー教授の滞在も、9月9日で終了し、ホー先生は10日に離日されました。滞在中は夜間セミナーや論文執筆の忙しい間を縫って積極的に日本の行事にも参加なさり、東京を気に入ってくださったのは嬉しいことでした。

発行:お茶の水女子大学ジェンダー研究センター (Institute for Gender Studies, the)
〒112-8610 文京区大塚2-1-1  Fax: 03-5978-5845
E-mail: igs@cc.ocha.ac.jp  URL:http://www.igs.ocha.ac.jp/

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