IGS通信12号
2003年05月02日
新年度が始まり1ヶ月が経ちました。今年度最初のIGS通信です。
今年度もどうぞよろしくお願い致します。
第13回夜間セミナーのお知らせ
お茶の水女子大学ジェンダー研究センター(IGS)主催 第13回夜間セミナー
「東アジアにおけるジェンダー/セクシュアリティ理論と政治の諸課題」
Emerging Challenges to Feminist Gender/Sexuality Theories and Politics in East Asia
Prof. Josephine Ho(ジョセフィン・ホー)
お茶の水女子大学ジェンダー研究センター外国人客員教授
台湾・国立中央大学教授、同大セクシュアリティ研究センターコーディネーター
- 2003年 5/28, 6/4, 18(以上水曜), 6/27, 7/4(以上金曜)(全5回、すべて午後6時半より)
- 開催場所: お茶の水女子大学内 6/4は附属図書館第二会議室、それ以外は理学部3号館会議室
お茶の水女子大学ジェンダー研究センターでは、2003年4月から9月まで、台湾・国立中央大学教授、同大セクシュアリティ研究センターコーディネーターの ジョセフィン・ホー先生を当センター客員教授としてお迎えすることになりました。ホー教授は台湾・国立政治大学西欧諸語・文学部を1972年に卒業後、米 国・ペンシルヴァニア大学教育学研究科で1975年に修士号、ジョージア大学言語教育学研究科で1981年に教育学博士号、さらにインディアナ大学英語研 究科から1992年にPh.Dを取得しました。1988年に台湾・国立中央大学英語学部助教授に着任し、2001年に同大学教授となって現在に至ります。
また、1995年、同大学にセクシュアリティ研究センター(Center for the Study of Sexualities; 性/別研究室)を創設し、以降、コーディネーターの任にあります。台湾におけるセクシュアリティ/ジェンダー研究の指導的研究者として知られるホー教授は、中国語単著として、The Gallant Woman--Feminism and Sexual Emancipation豪爽女人 (1994)、Gendered Nations--Sexuality, Capital and Culture不同國女人 (1994)、Sexual Moods: A Therapeutic and Liberatory Report on Female Sexuality 性心情 (1996)、Radical Sexuality Education: Gender/Sexuality Education for the "New Generation" 性/別校園 (1998)、The Admirable / Amorous Woman 好色女人 (1998)などの複数の著書があり、また、多数の編著書も刊行しています。
なお、台湾においてセクシュアリティの問題を公の場で討論したり、研究することがタブーではなくなったのは、1990年代に入ってのことです。ホー教授はセクシュアリティ研究を推進する学問的な活動だけでなく、セクシュアル・ハラスメント概念を台湾に定着させるなど、社会的な活動に積極的に関与し、このような台湾社会における変化をもたらすうえで大きな役割を果たしてきました。
1994年には、United Evening News より Woman Who Changed Taiwan賞、並びに Independence Evening News より Woman of the Year 賞を受賞しています。
当センターでは、ホー先生の来日に伴い、「東アジアにおけるジェンダー/セクシュアリティ理論と政治の諸課題」のテーマのもと、下記概要の要領で夜間セミナーを開催いたします。大学内外に開かれたセミナーですので、どうぞふるってご参加ください。
第13回夜間セミナー実行委員会:伊藤るり、河野貴代美、竹村和子、宮尾正樹
事務局:秋林こずえ、長谷川和美
講義内容
I. 2003年5月28日(水)
ポルノグラフィと女性の性的主体性
ポルノグラフィとそれへの安易なアクセスに関しては、従来より懸念が表明されてきたわけだが、ケーブルTVとインターネットの普及はこうした傾向にいっそ う拍車をかけてきている。男性支配を強化するようなポルノグラフィ、そのなかの女性の欲望に関する表象、ならびに男性の欲望に関する誇大化された表象に対 して加えられてきたフェミニスト批判は、公共言説のなかでその影響力を強めている。フェミニストはまた、国家の支持を積極的に求め、活字メディア、あるい はインターネットにおけるポルノグラフィの生産とその流通を禁止するような法律の制定を追求してきた。この講義では、ポルノグラフィをめぐるフェミニスト の立場からの論争とその含意について、フェミニズム思想だけでなく、社会構築主義の視点から検討する。
コメンテーター:根村直美(日本大学助教授)
司会:河野貴代美(本学教授)
基本文献: | Vance, Carole S. ed., Pleasure and Danger: Exploring Female Sexuality, Pandora, 1989, 1992, pp 1-27. |
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参考文献: | Rubin, Gayle. "Misguided, Dangerous and Wrong: an Analysis of Anti-Pornography Politics." Bad Girls and Dirty Pictures: The Challenge to Reclaim Feminism, Eds. By Alison Assiter & Avedon Carol. Boulder, Colorado: Pluto Press, 1993, pp 18-40. |
II. 2003年6月4日(水)
セックス・ワークにおけるセルフ・エンパワーメントと職業的行為遂行性
過去数十年間において、女性の性的力と主体性の問題は、フェミニストの性をめぐる論争の焦点となってきた。この講義では、セックス・ワーカー活動家との会 話に基づきながら、台湾のセックス・ワーカーがきわめて限定された文化的資源の中から紡ぎ出してきたセルフ・エンパワーメントの言説や実践を考察する。こ うした言説や実践は、セックス・ワーカーが自分の労働条件をより良く把握することを可能とするだけでなく、自分たちを身体的な危害や社会的な非難から守る ための職業的イメージを作るために役立つ。講義では台湾のセックス・ワーカーが闘争を通じて自分たちの職業的イメージに関するセルフ・エンパワーメントを どのように果たしてきたかを考える。
コメンテーター: 水島希(セックスワークの非犯罪化を要求するグループUNIDOS、SWASH [=Sex Work and Sexual Health])
司会: 河野貴代美(本学教授)
基本文献: | Ho, Josephine. "Self-Empowerment and 'Professionalism': Conversations with Taiwanese Sex Workers." InterAsia Journal of Cultural Studies, 2 (Aug. 2000): 283-299. |
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参考文献: | Chapkis, Wendy. Live Sex Acts: Women Performing Erotic Labor. Society for all Ages, New York: Routledge, 1997, pp 69-82. |
III. 2003年6月18日(水)
スパイス・ガールから援助交際へ
台湾におけるティーンエージ・ガールのセクシュアリティの形成
性的な冒険心や性的な自己決定をいくらかでも示そうとする少女たち。彼女たちは、危ない橋をわたり、ついには悲劇的結末にいたる「問題少女」とラベリング されるのがふつうである。にもかかわらず、最近十年のあいだに、台湾ではティーンエージャーによる性的な表現や活動がかなり広範に観察されてきた。実際、 ティーンエージ・ガールの性的な表現はあまりに目立ち過ぎ、挑戦的であるために、大人たちは躍起になって彼女たちのエネルギーを押さえ込もうとしている。 この講義では、今日の台湾におけるティーンエージ・ガールのもっとも顕著なセクシュアリティの構成を捉え、そのような現象を可能ならしめている、台湾に現 在深く進行している社会変動について広い見地からの理解を獲得したい。
コメンテーター: 田崎英明(大学非常勤教員)
司会: 河野貴代美(本学教授)
基本文献: | Ehrenreich, Barbara, Elizabeth Hess, & Gloria Jacobs. Re-Making Love: the Feminization of Sex, New York: Doubleday, 1986, pp 10-38. |
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参考文献: | Rubin Gayle. "Thinking sex: notes for a radical theory of the politics of sexuality." Pleasure and Danger: Exploring Female Sexuality, 2nd ed. Ed. By Carol S. Vance, London: Pandora Press, 1984, 1989,1992, pp 267-319. |
IV. 2003年6月27(金)
反人身売買から社会的規律へ
「人類史上最古の職業」とされる売買春はいつどんな時にも公共言説の対象となり、注目を集めるわけではない。しかし、ある種の危機が訪れると、売買春は、 社会の中で適切な場を得ていないさまざまな台頭勢力や社会不安が顕在化するための「メタファー、表現媒体」となる場合もある。この講義では、台湾の文脈で どのように売買春の「問題」が反人身売買言説の中に取り込まれるようになり、またどのようにしてこの反人身売買言説が急速に変化する社会的現実の中で徐々 にレレバンスを失い、人身売買される者だけでなく、より広い層の人びとをも規制するような社会的規律の微細で緊密な網の目へと転形していったか、そのプロセスを追っていく。
コメンテーター: 竹村和子(本学教授)
司会: 伊藤るり(本学教授)
基本文献: | Ho, Josephine. "From Anti-Trafficking to Social Discipline: The Case in Taiwan." (Forthcoming in Shifting the Debate: New Approaches to Trafficking, Migration, and Sex Work in Asia, eds. By KamalaKempadoo, Jyoti Sanghera & Bandana Pattanaik). |
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参考文献: | Bland, Lucy. Banishing the Beast: Sexuality and the Early Feminists, New York: The New Press,1995, pp 95-123. |
V. 2003年7月4(金)
アイデンティティと身体化――トランスジェンダーを構築する
台湾におけるトランスジェンダー化された主体は、社会的資源と文化的な場が限られている中で、自己の性的身体とジェンダー・アイデンティティを確保するた めに、自己の身体とイメージの構築にむけて奮闘してきた。台湾の文脈におけるトランスジェンダーの存在とその特徴、ならびにこれらの主体が自らの社会的存 在を位置づけるための躍動的戦略についての研究は、まだその緒についたばかりといえる。性別、年齢、社会経済的地位、外見、体格等の差異が、かれらのアイ デンティティを説得的に身体化するうえでどのように影響し、どのようにこの自己の構築過程を通して造り上げられる主体が身体化されるジェンダーの意味や呈 示を屈折させつづけると同時に、私たちの同種二態的ジェンダー文化に新しい変数を投じているかを検討する。
コメンテーター: 三橋順子(中央大学社会科学研究所客員研究員)
司会: 伊藤るり(本学教授)
基本文献: | Prosser, Jay. Second Skins: The Body Narratives of Transsexuality, New York: Columbia Univ. Press,1998, pp 1-17. |
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参考文献: | Califia, Pat. Sex Changes: The Politics of Transgenderism, San Francisco: Cleis Press, 1997, pp 86-119. |
夜間セミナー要項
開催日時: | 2003年 5/28、6/4、18(以上水曜)、6/27、7/4(以上金曜)。 いずれも午後6時半~8時半。 |
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開催場所: | お茶の水女子大学内。 6/4は附属図書館第二会議室、それ以外は理学部3号館会議室。 |
使用言語: | 講義は英語。日英逐語通訳の予定。 |
資料代: | 当日配布するレジュメ・資料について、実費を申し受けます。 |
交通機関: | 丸の内線茗荷谷駅、もしくは有楽町線護国寺駅から徒歩10分。 |
申し込み方法: | お申し込みは、別紙のファックス送信用フォーマットをご利用ください。E-mailにてお申し込みになる場合は、お手数ですが、別紙の項目を参考にして、参加日や連絡先等はっきりわかるようにご記入ください。 |
申し込み締切: | 資料準備の都合上、5月20日(火)2:00pmまでにお申し込みください。 |
申し込み先: | お茶の水女子大学ジェンダー研究センター ジョセフィーヌ・ホ―教授夜間セミナー事務局 宛 (宛先をご明記ください) 住所 :〒112-8610 文京区大塚2-1-1 Fax: 03-5978-5845 E-mail: igs@cc.ocha.ac.jp (件名に「夜間セミナー参加」と明記してください) |
Columns
★ タイのアジア工科大学(AIT, Asian Institute of Technology)スプリング・ワークショップ「ジェンダーと開発」第2回が去る2月23日~3月8日に実施されました。お茶の水女子大学からは院生 4人、学部生2人の合わせて6人が参加しました。今回のテーマは「グローバリゼーション、労働、ジェンダー」で、移民・難民をサポ-トするNGOなど様々 なNGOや多国籍企業(SEIKO)の訪問とインタビュー、AITの学生とのディスカッション、AITでの講義、修了プレゼンテーション等のプログラムが 組まれました。学生達は今回のテーマのもとでそれぞれの関心に基づきフィールドワーク体験をし、目で見、肌で感じる体験を通して、各自の研究の飛躍につな げるためのさらなる交流の必要性を感じたようでした。
★去る3月15日(土)午後2時より、IGS主催により、シンシア・ エンローIGS客員教授の第2回公開講演会「軍事化の兆しを知るために―フェミニズムが与えるいくつかのヒント―」を開催いたしました。シンシア・エン ロー教授の講演の後、コメンテーターとしてお迎えした古沢希代子助教授(恵泉女学園大学大学院)からのコメント、フロアを交えた活発な意見交換や質疑応答 等、充実したシンポジウムとなりましたこと、ご参加いただきました皆さまには心より感謝申し上げます。
★第2回公開講演会 に先立つ3月9日、エンロー教授は沖縄を訪れ、「日常に潜む軍事化――ジェンダーの視点で解く」の講演を行いました。100人もの参加者が集まった講演会 の模様は3月17日付の沖縄タイムスに取り上げられ、また3月13日付の琉球新報には米軍基地を抱える沖縄で感じたことなどを答えたエンロー教授のインタ ビュー記事が掲載されました。
★『ふぇみん』(婦人民主新聞)に 4月5日から、エンロー教授の夜間セミナー「ミリタリズムとジェンダー」にご参加下さった方々による参加報告が連載中です。毎回の夜間セミナーの模様をご 報告くださり、会場の雰囲気まで伝わる記事としてくださいましたので、ぜひお読みください。なお、シンシア・エンロー教授は日本での滞在を終えられ、4月 1日、ご帰国なさいました。
★ジェンダー研究センターでは今年度より「東アジアにおける植民地的近代とモダンガール」プロ ジェクト(moga-a)を開始いたします。従来モダンガールの研究は一国内の都市現象として見られる傾向にありましたが、この研究では、主として日本、 中国、朝鮮、台湾、沖縄を対象としながら、戦前日本の植民地にまで視野を広げ、これをジェンダー化された植民地的近代の産物として位置づけつつ、その再構 成を図ることを目指すものです。このプロジェクトは今年度から4年間の科学研究費補助金を受けて、国内ネットワークを形成して研究を進め、海外とはアメリ カ・ワシントン大学 "Modern Girl Around the World" プロジェクトとも連携しながら進めることになります。
Information
★平成12年度IGS客員教授タニ・バーロウ(ワシントン大学教授)の論文「中国のフェミニズムにおける『女性』の問題――1920、1930年代の優生 学的言説――」が『思想』2003年5月号に掲載されました。また、『アソシエ』第11号(2003年4月)にバーロウ教授のジェンダー研究センター夜間 セミナー講義記録集『国際フェミニズムと中国』(御茶の水書房)の書評が掲載されました。
★上記『アソシエ』第11号にはシンシア・エンローIGS客員教授のエッセイ「戦争計画者は女をあてにする」も掲載されています。どうぞご一読ください。
★IGS年報『ジェンダー研究』第6号(通巻23号), 2003年3月 を刊行いたしました。平成13年度IGS客員教授ヴェラ・マッキー(カーティン工科大学教授)と平成14年度IGS客員教授カルラ・リッセーウ(ライデン 大学教授)のIGSでの公開シンポジウムをもとにした論文等の他、翻訳、図書紹介、書評など掲載されています。
以下に、目次より掲載内容をご紹介いたします。
<論文> |
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Faces of Feminism in Transnational Media Space |
Vera MACKIE |
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A Retracting Welfare State: Some Reflections on the Issues of Citizenship and Family in Relations to the Dutch Care Policy |
Carla RISSEEUW |
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テレビ・コマーシャルにおける性ステレオタイプ的描写の内容 |
坂元章・鬼頭真澄・高比良美詠子・足立にれか |
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自治体における男女平等オンブズパーソンの意義と課題 |
大西祥世 |
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植民地期台湾における女性のエイジェンシーに関する一考察 |
宮崎聖子 |
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河田嗣郎の「男女平等」思想とジェンダー |
亀口まか |
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<翻訳> |
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マキシン・モリニュー著「<解放なき動員>を問う ―ニカラグアにおける女性の利害関心、国家、そして革命―」 |
藤掛洋子 |
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解題:モリニューの「ジェンダー利害関心」論とWID/GADアプローチへの含意 |
伊藤るり |
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<図書紹介> |
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VAWW-NET Japan編 |
金富子 |
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<書評> |
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Sharon E. FRIEDLER and Susan B. GLAZER(eds.)Dancing Female: Lives and Issues of Women in Contemporary Dance |
酒向治子 |
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荻野美穂著『ジェンダー化される身体』 |
久保田育子 |
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洪郁如著『近代台湾女性史 ―日本の植民統治と「新女性」の誕生―』 |
HE Wei |
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<ジェンダー研究センター彙報〈平成13年4月1日~平成14年3月31日〉> |
発行:お茶の水女子大学ジェンダー研究センター (Institute for Gender Studies, the)
〒112-8610 文京区大塚2-1-1 Fax: 03-5978-5845
E-mail: igs@cc.ocha.ac.jp URL:http://www.igs.ocha.ac.jp/