ジェンダー研究の国際的拠点 - お茶の水女子大学 ジェンダー研究センター
 

IGS通信14号

2004年1月21日

新年、あけましておめでとうございます。旧年中はジェンダー研究センターの活動に ご協力、ご参加いただき、ありがとうございました。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

第15回夜間セミナーのお知らせ

お茶の水女子大学ジェンダー研究センター(IGS)主催 第15回夜間セミナー
「グローバル化における通文化的ジェンダー研究の意義と方法
―北東アジア女性口述生活史を事例として―」

李小江教授 Prof. Li Xiaojian (リ・シャオジャン)
お茶の水女子大学ジェンダー研究センター外国人客員教授
大連大学教授兼ジェンダー研究センター所長

お茶の水女子大学ジェンダー研究センターでは、2004年1月から3月まで、中国大連大学教授兼同大学ジェンダー研究センター所長の李小江(リ・シャオジャン)先生を当センター客員教授としてお迎えすることになりました。

  李小江先生は、1980年代に中国において女性学を創始した著名な研究者であり、現在も中国女性学研究の展開につとめ、大連大学教授兼ジェンダー研究セン ターの所長の任にあります。李小江先生の研究活動、社会活動歴は多岐にわたる目覚しいものです。研究活動においては、1988年の『イブの探究』を始めとして,『性溝』(1989)、1994年には『走向女人』(邦訳『女に向かってー中国女性学をひらく』)など、中国社会の女性解放について果敢に論じた多 数の著作を刊行しています。その著作は、ドイツ、米国、インド、韓国等の海外においても刊行されています。研究活動以外にも民間研究女性団体「女性学会」 設立(1985年)、鄭州大学女性センター設立(1987年)、中国女性博物館の創設(1991年)等、名実ともに女性学のパイオニアとして活躍をされてきました。李教授の業績は国内外から高い評価を受け、1989年には中国国家教育委員会より全国優秀教師賞、1994年にはイギリスケンブリッジ国際セン ターから「20世紀における達成者賞」、1995年にはニューヨーク市立大学より国際女性パイオニア栄誉称号が送られています。

 近年は、主に20世紀中国女性の口述史に関するプロジェクトを推進し、その研究成果である『20世紀中国女性口述史叢書』の既刊の4巻は「戦争編」「時代編」「文化編」「民族編」として2003年1月に刊行され、後続の4巻は2005年に刊行の予定です。

 今回の夜間セミナーでは、李小江先生が近年取り組んでいる「満州国」期の中国、朝鮮、日本の女性の口述史を中心に講義していただきます。李先生もコメンテーター及び講義参加者との交流を期待していらっしゃいます。大学内外問わず、皆様ふるってご参加ください。

第15回夜間セミナー実行委員会 舘かおる、秋山洋子、宮尾正樹、河野貴代美
事務局: 長谷川和美、原田雅史

講義内容

I. 2004年1月28日(水)
理論的仮説:「プレ‐グローバリゼーション」問題から「グローバル化研究」を考える
―なぜ行うか? どのように? 何をなしとげたか?―

通文化的理解は困難であり、そのための最善の方法は「事例」の紹介だと考える。そこで、毎回の講座では事例(つまり「物語」)の紹介からはじめることにする。初回の中心は二つである。一つは私個人の経験を例に、女性研究からジェンダー研究へと転換した過程と意義を紹介しつつ、多元的文化並存のグローバル化という背景のもとで、ジェンダー研究が、主流にある学術分野と伝統的な学術界に対して積極的に影響を及ぼし働きかけてきたことを説明する。二つめは、今回のセミナーの主題に関連するもので、主として用語の説明、とくに私の研究とセミナー全体に深く関係するキーワード――例えば、プレ‐グローバリゼーション(前グローバル化)/「グローバル化」(初回に重点的に取り上げる)、ジェンダーの関係とその社会的生態環境、個人における生活/生存の質(主に2回目に取り上げる)――を説明したい。ほかに、研究方法やこれまで取り組んできたこと、今後の課題についても触れる。

コメンテーター: 秋山洋子(駿河台大学教授)
司会: 舘かおる、河野貴代美(本学教授)

II. 2004年2月4日(水)
〈方法1〉ジェンダー分析:階級/民族/国家を超えて
―中国朝鮮族と南北KOREAの事例から―

ジェンダー関係への考察は、異なる政治制度と民族文化によってつくられた「社会生態環境」における個人の生存水準を見るための、最適な角度だと考える。1 世紀以上にわたって世界中で、政治制度(植民地戦争、東西冷戦)やイデオロギーが、一部の伝統的民族/国家を転覆し分断した。その典型は朝鮮民族(三分 割)、ドイツ民族(二分割)、中華民族(外部は三分割、内部に少数民族)などである。この第2回では中国の朝鮮族と南北KOREANを例に、ジェンダーの 視点からアプローチする。講師自身の先の北朝鮮訪問を手がかりとして、異なる社会制度における同一民族のジェンダー関係を実地調査し、比較研究を試みた内 容を取り上げ、近代国家制度とイデオロギーがいかにジェンダー関係を作り直したか、また伝統的民族文化がジェンダー関係を通していかに個人の生活の質に影 響を及ぼすかを論じる。

コメンテーター: 早川紀代(横浜市立大学非常勤講師)
司会: 宮尾正樹、舘かおる(本学教授)

参考文献:

鄭判龍、《朝鮮―韓国文化与中国文化》、李鐘殷主編、中国社会科学出版社、1995年
Joyce Gelb and Marian Lief Palley ed. Women of Japan and Korea: Continuity and Change, Temple Univ. Press, 1994
李小江主編、《民族叙事:20世紀中国婦女口述史》、北京三聯書店、2003年

III. 2004年2月12日(木)
〈方法2〉口述インタビュー:生活/生存の質を省察する
―北東アジア(中国、日本、韓国)農村女性の事例から―

研究の対象である個人の具体的な生活状況に対し、多面的な理解や「共感」を得るためには、その生活環境に身を置き、面と向かって話を交わさなければならな い。「観察」(見る)だけでは不十分で、「聞く」こと――生活や社会に対するその人自身の感じ方を聞き取ることが重要である。そのため、第3回では、似 通っているが異なる二つの概念――生活の質(自分の感じ方)と生存の質(研究者の分析)を用いて説明する。前者は研究対象の「自己感覚」であり、後者は諸 要素を総合した研究者による判断である。今回はジェンダー比較方法を取り入れる。農村という場を選んだのは、伝統がかなり温存されており、多元文化の特色 がみてとりやすいからである。一方、女性を対象に選択したのは、私的領域と個人生活についての記憶とその言語表現が、かなり完全形で望めるからである。具 体的には、「三つの農業問題」をテーマに、中国東北部(漢民族、朝鮮族)、それに日本(宮部村七里夫婦)への実地調査、インタビューを中心に、通文化的比 較を行う。ジェンダー分析を通じて、研究の視野を国家/民族/階級/家庭など社会的範疇のレベルから、生身の個々の人間にズームアップしてゆく。

コメンテーター: 桜井 厚(千葉大学教授)
司会: 河野貴代美、宮尾正樹(本学教授)

参考文献:

李小江主編、《20世紀中国女性口述史叢書》(全4巻)、三聯書店、2003年
遊鑑明、《傾聴?們的音声:女性口述歴史的方法与口述史料的運用》(彼女たちの声を聞け:女性口述の歴史的方法と口述資料の応用)台湾、台北左岸文化出版公司、2002年
Sherna Berger Gluck and Daphne Patai, ed.
Women's Words: The Feminist Practice of Oral History, New York, Routledge, 1991.

IV. 2004年2月18日(水)
〈方法3〉立場の置きかえ:多元的文化の差異、衝突、選択を提示する
―旧満州(日本植民地)時代の口述生活史を中心に―

民族による価値観のちがい、ひいては敵対する政治的立場はわれわれの判断に影響を与え、語る主体(「私」か「我々」)に異なる中身を付与する。「我々」と いう主語はしばしば「民族」の代名詞となり、ナショナリズムを避けるのは難しい。ところが、「私」の物語からだと、たいせつな歴史の情報をかいまみること ができるし、「衝突」や「選択肢」を認識する動機や手がかりがみつけられる。「立場の置きかえ」は人々の相互理解、尊重そして平和共存の前提である。通文 化的ジェンダー研究は少なくとも、政治立場、民族立場、性別立場という三つの面に配慮すべきであり、「排斥」ではなく、互いの「共感」によって総合的分析 を行う必要がある。今回は旧満州(日本植民地)時代の女性の「米」に関する集団の記憶を事例に、二つの問題を提示したい。一つは民族のアイデンティティ (およびその衝突)、もう一つは女性の歴史記憶の特殊な位置付け、ということである。植民地時代の「日常生活」からアプローチするが、関係する内容と問題 は、現代の「グローバル化」の流れに伴って現れた「ポストコロニアリズム」に相似する点が多く、示唆するところがあると考える。

コメンテーター: 中尾知代(岡山大学助教授)
司会: 秋山洋子(駿河台大学教授)、舘かおる(本学教授)

参考文献:

劉晶輝、〈論中国東北部陥落期的"賢妻良母主義"的提唱〉、《歴史、史学与性別》、李小江主編、中国江蘇人民出版社、2002年
早川紀代「日本帝国と旧満州国統治下の女性」、東海ジェンダー研究所『ジェンダー研究』2002年12月、第5号
竹中憲一『満州教育基礎研究』、柏書房、2000年

夜間セミナー要項

開催日時: 2004年 1/28,2/4,12(木),18。  2/12以外は水曜日。いずれも午後6時半~9時
開催場所: お茶の水女子大学理学部3号館7階701室
使用言語: 講義は中国語。日中逐語通訳
参加費: 当日配布するレジュメ・資料について、実費を申し受けます。
交通機関: 丸の内線茗荷谷駅、もしくは有楽町線護国寺駅から徒歩10分。大学構内入校の際、正門と南門にて身分証明書の提示を願いすることがあります。ご協力をよろしくお願い致します
申し込み方法: お申し込みは、別紙のファックス送信用フォーマットをご利用ください。
E-mailにてお申し込みになる場合は、お手数ですが、別紙の項目を参考にして、参加日や連絡先等はっきりわかるようにご記入ください。*なお、このセミナーは本学大学院の単位認定対象とはなっていません。
申し込み締切: 資料準備の都合上、なるべくお早くお申し込み下さい。
申し込み先: お茶の水女子大学ジェンダー研究センター 
李小江(リ・シャオジャン)教授夜間セミナー事務局 宛  
住所 :〒112-8610 文京区大塚2-1-1
Fax: 03-5978-5845 URL: http://www.igs.ocha.ac.jp/ 
E-mail: igs@cc.ocha.ac.jp(件名に「夜間セミナー参加」と明記してください)

Information

★お茶の水女子大学21世紀COEプログラム「ジェンダー研究のフロンティア」
一般公開セミナーのご案内(1,2月)
●1月23日(金)15:00~17:30
研究会「アジアにおける国際移動とジェンダー配置」第4回
"Gendered Migration, Entitlements and Civil Action in Asia"
【講師】Keiko Yamanaka/Institute for the Study of Social Change, University of California, Berkeley
【司会】伊藤るり/お茶の水女子大学教授【場所】お茶の水女子大学附属図書館第二会議室
●2月18日(水)18:00~20:00
研究会「ポストゲノム時代における生物医学とジェンダー」第4回
1月10日の国際シンポジウム「遺伝・身体・女性と政治――ポスト・ヒト・ゲノム時代の科学・医学をジェンダーで再考する」での内容を中心に討論する。【場所】お茶の水女子大学附属図書館第二会議室
●2月21日(土)14:00~17:00
研究会「EUの科学技術分野におけるジェンダー主流化政策」
【講師】ニコラ・ドゥワンドル/ヨーロッパ連合研究総局「女性と科学」部長
【場所】お茶の水女子大学理学部3号館7階701室
*これらの研究会はどなたでも参加できます(申し込み不要)。
お問い合わせは、下記まで。
お茶の水女子大学COE「ジェンダー研究のフロンティア」事務局
TEL:03-5978-5547 FAX:03-5978-5548 E-mail:f-gens@cc.ocha.ac.jp


Columns

★昨年9月から当センター外国人客員教授として着任された戴錦華教授の滞在も12月22日で終了し、戴先生は26日に離日されました。なお、戴先生は今年9月にも下記にご紹介するシンポジウムの講師として日本にいらっしゃる予定です。

★去る12月19日~21日、科学研究費補助金の研究プロジェクト「東アジアにおける植民地的近代とモダンガール」のワークショップが静岡県の掛川市で行われました。掛川市には資生堂の企業資料館があり、資生堂社史の研究にあわせて最終日には見学会も行われました。
  合宿では、「日本における『新しい女』と『モガ』という二つの像、概念の関係」(牟田和恵、大阪大学)、「日本の風刺漫画におけるモガの身体」(ヴェラ・ マッキー、カーティン工科大学)、「沖縄の近代における〈女性〉主体の諸問題」(宮城晴美、那覇市歴史資料室)、「戦後沖縄の女性向け雑誌『沖縄婦人之 友』に関する予備的考察」(伊藤るり、IGS)、「1930年代広州における都市部サービス雇用への女性労働者の参入と美の消費」(アンジェリーナ・チ ン、カリフォルニア大学サンタクルス校Ph.D candidate)、「中国における〈近代〉の異なる意味とモダンガール」(戴錦華、北京大学)、「中国における優生学的女性、半植民地主義、植民地的 近代」(タニ・バーロウ、ワシントン大学)の7本の報告があり、本プロジェクトにとってのキー概念でもある「植民地的近代」に関して一橋大学坂元ひろ子氏 から貴重な問題提起がなされました。 なお、本プロジェクトでは2004年9月下旬に、ワシントン大学のチームとの共同で、国際ワークショップ「アジアに おけるモダンガールと〈世界〉――グローバル資本・植民地的近代・メディア表象――」を開催する予定です。合計16本の発表が予定されているこのワーク ショップでは、モダンガール研究の方法論や理論的な枠組に関する興味深い意見交換が予想されます。また、ワークショップの3日目には、若手研究者への支援 を目的とした、国内外の大学院生によるセッションも企画しています。
このワークショップに関してはまたあらためてご案内いたします。

★ 去る12月13日、台湾の国立中央大学にて第5回International Super-SlimConference on Politics of Gender/Sexualityが開催されました。主催は、昨年9月まで当センターに外国人客員教授として滞在したジョセフィン・ホー教授がコーディ ネーターを務める台湾国立中央大学性/別研究室で、「トランスジェンダーの時代」をテーマとし、台湾、米国、日本のトランスジェンダーをめぐる問題に関し て議論が行われました。基調講演は、米国から招聘された作家・活動家のLeslieFeinberg氏によって行われ、また、各国/地域の当事者が参加し たパネルディスカッションでは、当センターでのホー教授の夜間セミナーにおいてコメンテーターを務めた三橋順子氏が日本から招聘され、台湾の当事者と共に 当事者の視点に立った貴重な議論が交わされました。当センターからはホー教授の夜間セミナーを担当した長谷川和美が参加し、台湾のジェンダー研究の状況に ふれ、ホー教授との再会、白熱した会議への参加、と有意義な時間を持ちました。

発行:お茶の水女子大学ジェンダー研究センター (Institute for Gender Studies, the)
〒112-8610 文京区大塚2-1-1  Fax: 03-5978-5845
E-mail: igs@cc.ocha.ac.jp  URL:http://www.igs.ocha.ac.jp/

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